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2018.05.01 (Tue)
偽りの贖罪 A5サイズ 100ページ 1100円 調査物

ナル×麻衣←安原(序章編)

偽りの贖罪


サイトに掲載している「罪のさいなみ」を元ネタにした話(9割新規に書いています)

母が事故に遭って依頼数年ぶりの大雪は、麻衣の気分を当時に引き戻す。
気鬱がしばらく続き、ようやく上向きになったころ入った依頼。
新婚半年目の家庭で突如起こるようになったポルターガイスト。
なぜ起こるのか、調査依頼が入る。
妻の周辺だけに起こるポルターガイストはRSPKか、それとも霊が関係しているのか。
   序章




 その年は関東全域で百年ぶりと言われるほど、大雪が降った日のことだった。
 予報の一週間ほど前から、大雪になる恐れがあると天気予報で注意を呼びかける声を、毎日のように聞いていたが、はたして本当に大雪になるのか? 大半の人間が予報に対して半信半疑だった。
 大雪になると言われていても、本当にその通りになるのは希だ。
 大概が予想よりも降らず、すぐに消えてしまう。
 だが、当たる時もある。
 ありとあらゆる物が真白に染まり、音を飲み込み、沈黙の世界を築く。
 喧噪に満ちていた世界が幻の存在だったかのようだ。
 いや、静寂に支配された世界の方が、白い悪魔によって生み出された幻か。
 だが、白い悪魔が首都圏に発生することはほとんど無いと言っても過言ではない。
 山が間近な関東北部や西部ならともかく、南部ともなれば年に一度か二度、ちらつけば多いほうだ。一度も降らない年もあるというのが通常仕様。
 大雪注意報が出たとしても、気象庁が大げさに言っているのだろう。その程度の認識しかない。だが、ほんの一センチ二センチ積もるだけでも、麻痺する首都圏の交通事情を鑑みれば、注意を促すのは必然的な事なのだが。
 空を見上げて少女は迷う。
 昨日まで雪が降るようには見えなかった青空はどこへ消えてしまったのか。気温だって真冬だというのに二十度近くまで揚がり、小春日和だと言われていた。それがたった一晩で様相を変えてしまった。
 灰色の分厚い雲が空を覆い、青空を飲み込んでしまっている。吹き抜ける風はまるで冷凍庫の冷風を思わせる冷たさで、昨日との気温差に身体がついてこない。
(本当に大雪になるのかな)
 母親には大雪注意報が出ているから、自転車はやめておきなさいと注意を促されたが、バスを使うのではいつもより早く出なければならないのが面倒くさい。
 それに、雪が降り出すのは夕方からという話だ。
 自分は今日は午前中でバイトが終わり、お昼過ぎには店を出れる。
 だとすれば、雪が降り出す前には帰宅できるはずで……
 この氷のように冷たい風を切ってチャリを走らせるのは少々きついものはあるが、チャリなら十五分でバイト先につく。そのぐらいならば厚着をすれば問題ない。
 逡巡はわずか。
 多少早く降り出すこともあるかもしれないが、降り始めはたいした雪にはならず、お昼過ぎには帰宅しているのだから問題ない。
 逆に予定より降り始めは遅くなるかもしれないのだ。
 そんなことを考えながら、防寒対策だけはしっかりしてバイト先に向かう。
 だが、その日選んだ選択は間違っていた。
 母の言うとおりにしていれば避けられた事故。
 変に面倒臭がらずに自転車ではなくバスにしていれば、避けられた。
 雪なんてたいしたことない。どうせ降り出すのは夕方から……などと甘くみていなければ、避けられた事故だったのだ。
 だが、悔いた時にはもう遅かった。
 起きた後で悔いても、誰にもどうしようがない。
 そこにたどりつくまでに、防げる方法はいくつでもあったのに、その全てを無視したのは自分なのだから。
「うわっ、どうしたの。雪まみれじゃん!」
 自分と入れ替わりに入るはずのバイト仲間が姿を現したとき、予想外の姿に思わず目を見開く。
 頭にも肩にも埃のような雪が着いており、半分髪は湿って血の気を無くした肌に張り付いていた。
「失敗した! 家出るときは霰だったから大丈夫と思ったんだけどさ、みるみるうちに綿雪になってこの有様」
 パンパンと肩や髪に着いた雪を払いながら、おとなしくバスにすれば良かった!とぼやくバイト仲間を横目に、外の様子を見にいったん外に出てみる。
 朝、自分が家を出たときはまだ降っていなかったというのに、灰色の雲からは次から次へと止む様子を見せない雪が降りっていた。
「まじかー。予報より早くない?」
 予報では夕方から降り出すと聞いていたのに、今は正午過ぎ。
 予想よりかなり早い。
「あんたはもう上がりでしょう。早く帰った方がいいよ。今日はやばいと思う。店早く閉まらないかなぁ。あたし今日はラストまでなんだよねぇ。帰れるかなぁ」
 降り始めたばかりだというのに、すでに帰る頃のことを心配したくなる気持ちは分かる。
 目の前でみるみるうちに、雪が積もっていくと言うことはなかなか見ない光景だ。
 今まで雪は降っても積もる前に溶けて消えてしまう。
 雪なんてそんなもんだとずっと思っていた。
 ふわふわ風にたゆたう姿はすぐに消えてしまいそうなのに、勢いは増すばかりで衰える様子はなく、灰色の世界は少しずつ白い雪化粧を施されていっていた。
 それでも、積雪はまだ二センチ程度。
 これからどのぐらい雪が降ることになるのか予想もつかないが、まだこのぐらいなら大丈夫。往来がそれなりにある通りはまだ積もっておらず、シャーベット状態ですんでいる。
 寄り道もせずまっすぐ帰れば、チャリでも帰れる……はずだ。
 無駄な自身が背中を押す。 
「よし、善は急げ」
 どうしようと迷っている間にも雪は勢いを増していくのだから、だったら出来るだけ急いで帰ったもん勝ちだ。
 願わくば夕方までには止んでいて、明日の朝までには雪は無くなっていて欲しいところだが、この勢いが予報通り続けば、明日は見たこともないほど雪が積もっていることになるだろう。そうなったら、さすがに明日の朝はバスでバイトに向かわなければならないかもしれない。
 さすがにアイスバーン化している所をチャリで走る勇気はない。
 とはいえ、運行状況の読めないバスとなると、一体どのぐらい早く家を出れば良いのか、考えただけでため息しかでないが、店が臨時休業にならないかぎり来なければならない。
(シフトが入っている日に降らなくてもいいのに)
 数年前に大雪が降ったときは小学生だったからいい。
 学校はお休みになり、家の前の雪かきがてら雪まみれになって遊びまわった。記憶に有る限り大雪が降ったのはその時だけで、これで人生二度目の大雪だが、さすがに小学生の時のように心は沸き立たない。
 むしろ、面倒臭いという思いしかない。
 テレビをつけたらきっとL字放送になっていて、ひっきりなしに関東各地の交通情報が流れてくるのだろう。大事な速報だとは思うが常に流れているのは少しばかり鬱陶しく感じてしまう。
(交通網はもう混乱を起こし始めているのかな)
 そんなことを考えながら自転車に乗っていたのがいけなかったのだ。
 片手にハンドル。もう片方の手には禁止されている傘を持って、交差点をいつもの感覚でスピードを落とさずに曲がる。
 いつもと道路の状態が違うと言うことを忘れて。
 足下はぐしゃぐしゃのシャーベット状態になっているというのに、雨の日と同じような感覚になっていたのが、過ちだった。
 所々踏み固められたシャーベットは不格好な氷を作りはじめており、ハンドルが急にぐらぐらと左右に揺れる。そんな状態の時にカーブを曲がる体勢に入れば、片手でハンドルを制御しきれるわけがなく、つるっとタイヤが滑る。
「うわっ」
 思わず声を上げて反射的にバランスを崩した方の足を地面についたため、転ぶことは無かった。セーフ。
 そう思った次の瞬間、急ブレーキとタイヤが軋む音。反射的に放り投げてしまった傘が、タイヤの下敷きになる音が聞こえた次の瞬間、人が飛んだ。
「…………」
 何が起きたのか分からなかった。
 一瞬の事だ。
 車が突如ハンドルを切ったかと思ったが、ノーマルタイヤだった車は急ブレーキによって雪の上を滑り信号待ちをしていた女性を撥ねあげた。
 ふわりと空に舞い上がった女性は、自分の身に突然何が起きたのか理解できていなかったのだろう。大きく鳶色の目を見開いたまま空を舞う。
 無意識のうちに空を舞う彼女を目で追っていくと、彼女と目が確かにあった。
 自分がこの事故の原因だと責め立てるような鳶色の目に恐怖を感じ、彼女は反射的に地面に着いた足を蹴る。
 ぐっとハンドルを両手で力を入れて握り、今にもペダルを踏み外しそうなほど震えている足に力を入れて、ペダルをこぐ。
 一分一秒でもその場から早く離れたくて。
 タイヤは勢いよく回転をし、泥混じりのシャーベットを弾き飛ばす。
 事故の目撃者だ。本来ならばその場から離れてはいけないのかもしれない。
 あの女の人を撥ねたのは車で、車を運転していた人は知らない人だ。
 自分はただ警察に聞かれたら、見たままを伝えればばいい。
 雪でスリップした車が交差点に突っ込んで、信号待ちしていた女性を撥ねた。と。
 その車がなぜスリップを起こしたのか――目の前に現れた傘を反射的に避けようとしたため。
 なぜ、その傘がいきなり車の前に飛んできたのか。それは、自転車がスリップした弾みに放り投げてしまったため。

 自分が傘を片手で持っていたため――

  私は悪くない。

(だって、あの人を撥ねたのは車だもん)
 
  私は悪くない。

(車を運転していたわけじゃないもん)

  わたしはわるくない。

 なのに、どうして――

 家に飛び込んで布団を被る。
 寝て目が覚めたら全て夢だったで終わることを祈って。
 遠くから聞こえてくる救急車の音も、パトカーの音もすべて消えていることを祈って。
 階下から驚く母親の声を無視して、目をつぶり耳を塞ぐ。

 大丈夫。

 誰も見ていなかった。
 運転手も周りを見ている余裕はなかったし、すぐにあの場から離れてしまった自分の事など覚えてないに違いない。
 今日の格好はジーパンにダウンコート。傘を道路側にさしてたから手放すまで人に顔はみられていない。
 人気の無いとおりで、誰も自分のことなど見ていない。

 だから、大丈夫。

 あの傘の持ち主が自分だと言うことなど誰にもばれない。
 傘もありがちなビニール傘で、持ち主など追えようがない。
 撥ねられた人と目があったけれど、あんな一瞬のこと覚えているはずがない。
 それに、あの人の感覚で言うなら、自分はたまたまあのとき通りかかった通行人に過ぎない。

 だから、大丈夫。

 なのに……

「ねぇ、坂本さん。昨日、○○交差点で起きた事故ってあなたが原因でしょう?」

 今まで一度も口を利いたことのないクラスメートが、そっと近づいてきたかと思ったら耳元で囁いた。
 その囁きは地獄の獄卒が罪状を告げるがごとく、冷ややかでぞっとするような声音。
 感情を伴わないのではない。
 それを告げることが楽しくて仕方ないといわんばかりに、どこか浮き足だったもの。
 何のことを言っているのかわからない。といってしまえばいいのに、取り繕うことも忘れて彼女を見上げると、彼女はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて立っていた。
 鎌をかけているのではなく、彼女は知っている。
 それだけは確信できた。
 そして、それを裏付けるように彼女は言葉を続ける。
「私、あの時あの場に居たの。気がつかなかったでしょ? あなたかなり気が動転していたし。うちあそこからすぐなの」
 ニヤニヤといやな笑みを浮かべたまま、彼女は楽しげに囁く。
 気は動転していた。
 だって、自分の傘が事故原因となったのだ。その結果人が撥ねられてしまったのだ。気が動転しないわけがない。
 直接撥ねたのは自分ではないとしても、お咎めなしですむはずがない。
 学校にばれたらどうなるのだろう。
 あと少しで卒業して、希望していた大学に進めるのだ。ここで事故原因となったことがばれたら、入学取り消しを食らうのではないか。それは大学入学だけではなく、その先の人生すべてが狂ってゆくことになるのではないか。
 永遠に逃れられない業となって、両手両足に絡みつく。
 正直に言えばそこまであの瞬間考えられた訳ではないが、本能的に逃げ出してしまったのは間違いない事実。
 だけれど、気は動転していたが確かに確認した。
 あの場を知っている者が他にいるのかどうかを。
 誰もいなかったはずなのに、彼女はまるでその場にいたかのように囁く。
 いやいたのだ。
 じゃなければ知るはずがない。
「私の部屋から、あの交差点が見えるの。だから、最初から最後まで見ていたの」
 口からの出任せ――へんないちゃもんをつけるのはやめて。そう言えばいいのに、口はまるでボンドで張り付いてしまっているかのように動かない。
 だって、確認した。
 周囲に誰もいなかったことを
 だけど、彼女はその時その場にいなければ分からないことを囁き、そして知りたくはなかったことを告げた。

「知っている? 撥ねられた人、亡くなったの」

 彼女の言葉に無意識のうちに首を左右に振る。
 あの日から怖くてあの道は避けて通るようにしているため、事故の後どうなったのか全く知らない。
 自宅まで少し離れていることもあって、家で交差点の事故が会話にでることはなかったし、家族がその話題を口に出すこともしなかった。
 あの道は自分がバイト先へと向かう時に抱け使う道で、駅方面に出る場合には使わないから、家族は誰も使わない。だからあそこで事故があったこと自体知らなくてもおかしくはない。
 それに、なによりも怖かったから新聞やネットでも事故の事を調べていない。
 全てに耳を塞いで、目を閉じてたから、知らない。
 なにも、知らない。
 なのに彼女は囁く。

「あなたが殺したのよね?」

 違う違う違う。
 私は誰も殺していない。
 ただ、バランスを崩しただけ。
 その時たまたま傘が車道に飛んでいってしまっただけで、自分は何も悪くない。

「でも、あなたが原因。あなたが傘を持ってチャリに乗ったのが原因でしょ?」

 悪くないわけないじゃない。
 そう続けられた言葉を、頭を左右に激しく振って否定する。
 そんな証拠はどこにもない。
 この人の見間違いだと言えば済むだけだ。
 だけれど、どう頑張っても言い逃れはできない。
 あの時使っていた傘を調べれば、自分の指紋が残っていることなどすぐに分かる。そうしたら、事故原因が自分であることは世間の知るところになるだろう。
 そして、責任から逃れるためにその場から逃げ出したことも。
 謝っても土下座をしてもどうにもならないことはこの世にはある。
 取り返しのつかないことはいくらでも。

  ――ごめんなさい

 どんなに謝っても、失った物は取り戻せない。
 怖かったの。
 自分の過ちが人を死に追いやってしまったことが。
 
  ――ごめんなさい

 まさかあんなことで人が死ぬことになるなんて思わなかったの。
 私はただバランスを崩して傘を手放してしまっただけだったから……

 彼女は嗤う。
 鳶色の目を輝かせて、悪魔のように嗤いながら、囁く。

 そうだ。悪魔は囁くのだ。
 人の道を踏み外させるために。
 いや、もしかしたらとっくの昔に囁かれていたのかもしれない。
 だから、あの時人としての道を踏み外してしまったのだ。
 自分の保身の為に。

「黙っていてあげようか。その代わり……ね?」

 にぃっと醜い笑みを浮かべた女は、耳元で囁く。
 
 その言葉はけして気は休まることはない。
 安寧へと続く道ではないことは分かっているのに、すがらずにはいられなかった。
 今なら分かる。
 あのとき愚かな道を選んでしまったということは。
 だけれど、もうほかに道はなかった。
 残されていなかった。
 もうこれ以外――

 空を見上げてかすかに唇を動かして、あの時誰にも告げられなかった言葉をつぶやく。
 もう遅い。
 今更口にしても遅いことは分かっている。
 だけれど、告げずにはいられない。

 ――ごめんなさい

 どんなに贖罪の言葉を向けても、どんなに頭を下げたとしても、あのとき逃げた自分にはその言葉を口にする権利はなく、偽りごとでしかない。
 永遠に胸の内に抱えていかねばならない己の業。
 自分の罪を知るものは、灰色の雲と世界を白く塗りつぶそうとする白い雪。
 そして、悪魔だけ……

 醜い顔をゆがめて彼女は何かを叫ぶ。
 罵りの言葉だったのかもしれない。
 蔑む言葉だったのかもしれない。
 だが、もうすべてがどうでもいい。
 この身は呪いの言葉でがんじがらめとなり、もう身動きがとれないのだから。
 今更その枷が一つ、二つ増えたところで何が変わるものでもない。
 だから、あなたの言葉に耳を貸すつもりはない。

「鳶色の悪魔はもう消えたんだから」

 彼女は晴れやかな顔をして、悪魔を飲み込んだ山を見上げた。










『大雪の影響で地盤が緩み、土砂崩れが起きた○○市△△で死後数年と見られる遺体が発見されました。△△警察署は遺体の身元の特定を急ぐと共に……』




業は消えることなく目覚める。
あの日と同じ日に。
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