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【冬コミ新刊の案内】緑の迷宮

2017.12.25 (Mon)
【冬コミ新刊】
緑の迷宮 A5サイズ 60ページ 600円 巻き込まれ型事件



高校卒業して以来連絡を取ることのなかった旧友から、綾子の元にメールが届く。
相談に乗ってほしい
ことがある。そう始まっていたが、何を相談したいのかがわからない。
ただ一方的に来てほしい。そう訴えるだけのメールは無視してしまえばいいのに、綾子は麻衣を伴って友人宅を訪ねてみることにした。
F県の山深くまで二人は足を運ぶ。
緑の濃いその山はまるで迷宮のようだった。

なぜ、綾子はそこへ呼ばれたのか。
 一章より一部抜粋。



 それは、奇妙なメールから始まった。


「――麻衣、あんたの休みって、次はいつよ」
 メールを見ながら問われた質問に麻衣は小首を傾げつつも、今度の日曜日を休みにしていることを伝える。
 基本、いつが休みというのは決めてはいないが、年末にナルと共にイギリスに行くことが決まっているため、その買い出しに当てようと考えていた。
 だから、けして暇というわけではない。
「ちょっとあたしに付き合ってくれない? 用事が終わったらあんたの買い物付き合うから。夕飯ぐらいおごるわよ」
「構わないけれど、どこに? というかいきなり何?」
 なぜ綾子が突然そんなことを切り出してきたのかさっぱり分からず、なんで?と麻衣の頭には疑問符がいくつも浮かぶ。
 先約があるからとい って断るにしても、相手にばれようがないのだから本当に予定など作る必要もないのではないか。
「んー。これ見てどう思う?」
 説明をしようとした綾子は、言うより早いだろうと言わんばかりに、スマホを麻衣の前に突き出してきた。
 画面はメールが表示されたまま。
 一瞬読んでいいのかな?とためらったが、受け取った人間が表示しているのだから見ても問題ない内容なんだろう。
 んじゃ、失礼。と麻衣は一応断りだけを入れて差し出されているスマフォを手に取り、画面に目を落とす。
 まずは、お久しぶりです。と定番の挨拶が簡潔に書かれている。
『松崎綾子様。お久しぶりです。覚えていますでしょうか高校の同期だった阿部栞です。突然のメールで驚かれたと思いますが、 ご相談したいことがありましてメールを送信させて頂きました』
 文頭を読んでずいぶん他人行儀な書き方だなぁ……と思ってしまったが、数年ぶりのやりとりとなるとこんな内容になるのだろうか。
 それともこれが社会人と学生の差というやつなのだろうか。
 それにしても相談したいこと――何年も連絡していない綾子に?と麻衣は不思議そうに首をかしげる。
 確かに綾子は姉御肌で、面倒見がいい。
 学生時代もなんだかんだ頼られたら断れず、周りの面倒を見ていたのではないか。そんな状況がすぐに浮かぶ。
『誰に相談していいのかも分からず途方に暮れておりましたところ、綾子さんの事を思い出し、こうしてメールを送信させて頂いた次第です。
 唐突でございますが、高校時 代、学校で起きた不思議な事を綾子さんが柏手一つで解決されたことを覚えていらっしゃいますでしょうか。当時、私は何が起きたのか分かりませんでしたが、今になってあれはもしかして――と思っております。
 唐突の話でご迷惑かと存じますがその件に関しまして、ご相談に乗って頂きたい事があります。
 詳細をメールに記載するのが筋かと存じますが、いまだ私も混乱しておりましてどのよう書いて良いのかわからず、詳細を書くに至らず申し訳ありません。支離滅裂となってしまっていますことお許し下さい。
 また、本来でしたら私の方から、綾子さんをお訪ねせねばならないと存じておりますが、幼子がおり自由に動ける身ではないため、ご足労をおかけいたしますが当方へお越しいただけ ませんでしょうか。また、家をどうしても見ていただきたく存じます。
 突然のことで驚かれていると思いますが、ご相談に乗って頂けますよう重ねてお願い申し上げます』
「どう思う?」
「どう思うって――」
 文面をみて唯一はっきりとわかることは、綾子が高校時代に何かやった――おそらく霊的なことの解決――ぐらいだ。
「綾子、高校時代に柏手でなんかしたの?」
「なんかしたっていうか、あれよあれ。馬鹿なクラスメートがこっくりさんやってたのよ。あんただって覚えあるでしょ」
 そう言われれば麻衣も苦笑いしかでない。
 このバイトを始めるきっかけとなったあの日、こっくりさんではないが百物語をやっていたのは自分だ。
「まぁ、普通は何も問題起きずに終わる ものだけれど、その時、低級霊ひっぱりだせちゃったのよ。まぁある意味低級霊でも呼び出せたってことは、メンツの中に才能があるのがいたのかもしれないけれど、そんなこと関係ないじゃない。で、呼び出された低級霊を制御できるわけがなく、ポルターガイストが起きて教室中大変」
 綾子ははぁとため息を零しながら、高校時代の一騒動を思い出して眉を思いっきりしかめる。
 放置するつもりでいた。
 ポルターガイストと言っても、家鳴りに近いラップ音とイスや机がカタカタと小刻みに揺れる程度でたいしたことはない。
 一時的に呼び出されて、あばれているだけの低級霊だろう。見えなくてもそのぐらいは何となく分かるし、あの当時何かと不安定だったため、懐に忍ばせていた榊の分 身も静かなものだった。
 ということは害意はない。
 場が解かれたらこの場から離れていくだろうと思っていた。
 だが、こっくりさんを行っていたメンバーは、そんな悠長に構えていられるわけがなかった。
 突然周りで起き始めた怪異。
 何が起きているのか理解などできるはずがなく、パニックを起こし騒ぎ始め、しまいには泣き出す始末。
 そんな風になるなら、こんな馬鹿なことをしなければいいのに。
 まぁ、誰もがこんなことになるなど思ってもいるはずがない。所詮遊び。こっくりさんをやっていてもそれは、無意識の意識が働いて指が動いてしまう。ということぐらい昨今は女子高生ですら知っている事だ。
 だから、ただ遊びでやっていたにしかすぎなかったはずが、 本当に現象が起きてしまったのだからパニックを起こさないはずがない。
(ただのバカよね)
 あきれ果て、我感心あらずと傍観者を決め込んでいたが、パニックというのは伝染する。
 そして、放課後のこととはいえその場には、多感な年頃の生徒達が幾人か残っており、我関せずだったクラスメート達にも恐怖は伝播していく。
 教室内が騒然とすれば外にもその気配は漏れ、よそのクラスの生徒達の好奇心が刺激される。そうなればさらに騒ぎが大きくなるのは時間の問題だった。
 そうなればなったで、さらに面倒な事が引きおこる。
 それこそ関係ないのに、その時その教室にいたということだけで、連帯責任を問われかねないことを察した綾子は仕方ない・・・と諦めのため息を零す。< br> 妙な騒ぎに巻き込まれるのはごめんだ。
 それこそ、くだらないことで。
 そっとブレザーの胸ポケットを一撫ですると、遠くから微かにシャリーンと鈴の音が鳴った気配が伝わってきた。
 ――大丈夫。
 数度、ゆっくりと深く呼吸を繰り返して呼気を整えると、「五月蠅い!」と怒鳴ると共に柏手を一つ叩いた。高く澄んだ音は、波紋を広げるように教室中に響き渡る。
 唐突の綾子の怒鳴り声と、柏手にパニックを起こしかけていた生徒達は呆気にとられ、綾子を呆然と見ていたが、綾子は「騒いでいると担任が乗り込んでくるわよ」と、教室を見渡して何事もなかったかのように告げる。
「あ――」
 誰かが綾子の言葉で我にかえる。
 あまりうるさいことを言う担任ではなかっ たが、ぐちゃぐちゃになった机の配列を見ても何も言わないほど、事なかれ主義者でもない。
 騒ぎを聞きつけて駆けつける前にと、皆が慌てて机を元に配置にもどしながら、今のなんだったんだろうねぇと話題にする。
 暢気なもので、鎮まれば「本当に呼び出せちゃった」「すごい」「今のってさポルターガイストとかってやつ?」と好き勝手にはしゃぎ始める。
 暢気な者だ。そう思いながらも、妙な事に巻き込まれたくなかった綾子は、一人先に教室を後にした。
 その後どんなやりとりが教室内で続いていたのか綾子には知るよしもないが、少なくともあれを綾子が鎮めたと結びつけて声をかけてくるクラスメートは、あの後も一度もなかった。
 唐突に始まって唐突に終わった。
 そん な認識になっていたと思っていたのだが、メールの内容を見て話題にしてこなかっただけで、綾子があれを終わらせたと考えていた人間が少なくとも一人はいたということが、このメールを見て分かる。
「ふーん。そんな事があったんだ。んじゃ、その件を持ち出してきたってことは、この人霊がらみの事で悩んでいるのかな?」
「それから、狐とか?」
 こっくりさんからの連想だろうが、思わず吹き出してしまう。
 確かに狐に憑かれたのではないかといった相談を持ち込む人もいるいはいるが、そういった相談を持ち込む人は年配ばかりで、若い世代ではまだない。
 綾子の高校時代の同級生ならば、まだ二十代半ばなのだから、狐に結びつけるとも思えない。そもそも社会人がどうすれば狐に 憑かれたと思うような状況になるのか。
 いい年して未だにこっくりさんをやっていたという流れなら、正直に言って痛すぎる。
 まだ、百物語をしていたらとか、肝試しをしたからの方がましだ。とはいえ、どれもそろそろ子供じゃないんだから――と、突っ込みを入れたくなる内容ではあるが。
「空いているなら付き合ってよ。それに幼子がいるって事は子供がいるってことでしょ。あたし苦手なのよね。あたしが話し聞いている間、子供の相手をしててよ。ついでに何か聞き出しておいてくれると助かるわ。そういうのあんた得意でしょ、バイト代出すわよ。イギリスでの小遣いの足しぐらいにはなるわよ」
 あっちは物価がびっくりするほど高い。
 特に外食にかかる費用は日本より高くつく 。
 ビールなど日本で飲む価格と変わらないのだから、税の高さがわかるというものだ。
 といっても、麻衣は特にアルコールの類いを好んで摂取することはないため、もっぱら綾子や滝川の嘆きを聞きかじっただけだが、ランチ一つとっても日本のように数百円ではとてもではないがすませられないため、旅費の足しになるのはありがたい。
 実質、旅費のほとんどはナルもちにはなるが、自分で自由に使えるお金に余裕が少しでもでるのは助かる。
「得意って訳じゃないけれど――まぁ、かなり遠いおたくみたいだし、分担して話を聞いた方がよさそうだねぇ。それにお家を見て欲しいって書いてあるし……というか、ここどこだろうね」
 書かれている住所はF県ではあるが、地図アプリで該当 住所を入れると、見つからないと表示されてしまう。
「かなり遠いわね……」
 思わず眉をしかめてしまう。
 東京から最寄り駅までを検索するだけで、ざっと四時間近くはかかりそうだ。ずいぶんと遠方に引っ越ししたのね。と綾子はため息を零す。
 遠いからと言って断ることも出来るが、数年ぶりとは言え友人からの相談事となると、無視をすることも簡単には選べない。
 たいしたことがなければいいが、万が一のことを考えてしまうと、当分は気になってしまうのは確実だ。
 だったら、一度でも話を聞いて対応してしまったほうが、気持ちよく年末年始を過ごせるというものだ。
「引っ越したばかりで何か嫌な事でも続いたのかしらねぇ。まぁたいしたこと無いと思うんだけれど」
 本人は本気で悩んでいるのかもしれない。
 だが、今までの経験上九割は本人の勘違いや、自然現象、人為的なことだったりする。
 そうそう本物の現象に当たらないことは、経験から予測できることだった。
 綾子が麻衣を誘ったのはなんとなく、というか気まぐれに過ぎない。
 たまたまそのメールを開いたのがSPRの事務所で、目の前には麻衣がいた。
 自分一人で尋ねても問題ないが、本人の気のせいだった場合、自分一人の説明で納得して貰えるか――と考えた時、仲間は一人でも多く居た方がなにかと都合がいい。
 特に麻衣はSPRで専門的に働いているのだから、説得力にあるだろう。
 綾子が言葉にしなかったことだが、経験から麻衣は察し苦笑を浮かべる。
 思い込んで 居る人間ほど面倒なことはない。それは、麻衣も経験のあることだった。
「別に急ぎの用事があるわけじゃないから構わないけれど、お友達に都合きかなくて大丈夫なの?」
「こっちの予定に合わせるって言っているし大丈夫じゃない? それこそ都合が合わないって返信が来たらそれまでよ。こっちがどうしても都合をつけなきゃならないわけじゃないし」
 その一言で綾子の気が向いただけということが、よく分かるというものだ。
 親しい友人からの相談なら、何を放り投げても駆けつけたいと思うところだが、卒業してからほとんど付き合いがないともなると、
 まぁ、相手もどうしても綾子に都合をつけてもらいたいことならば、必死になって約束をとりつけようとするだろう。
 それに しても学生時代の友人とのやりとりは、社会人になるとこうも淡泊になるものなのだろうか。
 綾子の対応に人事ながら少しだけ寂しく感じたことだけは確かだった。
「ナルにはあたしから話しつけておこうか?」
 とはいえそっけなく感じつつも、面倒見がいいことだけは確かで、休みの日の予定にもかかわらずナルに話をつけてくれようとする綾子に、麻衣は大丈夫と暢気に答える。
 綾子に相談したいことがあるからって、必ずしも心霊関係とは限らない。もしかしたら、金銭面の援助を請う話とか、就職の伝手を探してとか言ったかもしれない。
 高校時代の話を持ち出していることが気になると言えば気にはなるが、ナルに話をするとすれば、SPRの助けが必要になってからでも十分のは ずだ。
 ナルには休みの日に綾子と一緒に少し遠出してくる。とだけ、伝えれば問題ない。
 むしろ、帰国するまでの日数を考えると、誰にも邪魔されることなく書斎にこもれる時間が出来るとなれば、喜ぶのではないか。
「あんた達って若いのに黴ているわよね」
「は!?」
 綾子のあまりの表現に思わず麻衣は否定するが、綾子から見たら二十歳そこそこのカップルの発言とは到底思えない。
 休みの人なればデートとならないのか。
 まるで熟年カップルのような有様だ。
 それだけ、互いが互いの存在を自然と受け入れているのかもしれないが――そういう関係は羨ましい気もするが、若い内は若い内ならではの付き合いをしたほうがいいのでは?とそれこそ婆臭いことを考えていること に、綾子自身気がついていない。
「まぁいいわ。んじゃ、今度の日曜日空けておいて。詳しい時間帯はまた後で連絡するわ」
 詳細は後でとなると、話は綾子の友人の事から年末の予定の話へと変わっていく。
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