砂 上 の 楼 閣 BLOG

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【SPARK12 発行案内】再版 RUN!

2017.09.23 (Sat)
再版 RUN!
 A5サイズ 104ページ 1000円

RUN 再販表紙


 2014/10 SPARK9にて発行いたしました【RUN!】の再版になります。
 変更点は表紙のみ。
 他修正+書き足しなどで10ページ(1万字ちょっと)増量いたしましたが、話に大きな変化はありません。エピソードの追加もありません。
 序章の時点で2千字ほど追加。
 他、クライマックスを数ページ掘り下げて書き足しています。

 時期は革命から一年後。
 あの台風の時の事がトラウマになっている話。
 それをどう乗り越えて立ち上がるか。
 
 この話にはオリキャラなどは出ていません。名もない通行人程度が出ている程度です。

2014年度版のサンプルです
 
続きからサンプルで序章をごらんいただけます。

 序、




 柴崎が小牧に問われたのは当麻事件が解決し、全てが落ち着いた頃……転院した堂上の元へいそいそと郁が通うようになった頃だった。
 玄田から頼まれたという書類を柴崎に渡しながら、ついでとばかりに質問を投げられる。
「笠原さんの様子どう?」
「教官が転院してからというものの、毎日おしゃれしていそいそとデートに向かってますよ」
 あの山猿がびっくりするほどの変わりようですよねーと、柴崎は楽しそうに笑いながら言う。
 まだ、堂上と郁がつきあい始めた事を知らない男子隊員達が、にわかにしゃれっ気を帯び始めた郁を見て、色めき立っているのが楽しいのだろう。
「笠原の噂を聞いた堂上教官の反応はどうでした?」
 つい昨日、堂上の病室に顔を出したことを柴崎は笠原から聞いていたのか、楽しげに問いかけてきた柴崎に、小牧は思わず苦笑を漏らす。
「想像通り眉間にすっごい皺刻んでたよ。笠原さんはあの通りまったく気が付いてないみたいだけれど、だからこそ心配なんだろうねぇ。過保護がさらに悪化しそうな勢いだった」
 郁の寮内の評判が堂上の耳に届いている情報源は柴崎なのは確実だ。手塚があえてそんなことを堂上に報告するわけがない。
 ほか、タスクの先輩達が……とも考えられるが、彼らの報告を聞くよりも、柴崎からの報告が一番堂上をやきもきさせていることは間違いない。
 それは、楽しんで……というよりも、嫌がらせを兼ねて。
 郁が堂上の病室に通うようになれば、当然柴崎と居る時間は減っているはずだ。それが少なからずとも寂しさを伴っているはずだ。
 だが、そんな事を彼女は表に出すことはなく、小牧もあえて地雷を踏むようなまねはしない。
「デート先が病室ってのも味気ないからねぇ。早く退院してデートしたいってぼやいていたよ。でも見ようによったら、二人っきりになれるぶん寮よりいいのかな?」
 つい先日、病室で遭遇した二人の様子を思い出して、小牧はクスクスと笑いながら場所は問わないかと思い直す。
 二人ともくっつくまで周りがヤキモキするほど時間を掛けていたというのに、くっついたとたん人目も憚らない  まぁ、個室だからそもそも人目を気にしてないのだろうが  いちゃつき具合だ。
 特に堂上の変わりようがと言うべきか。
 元々過保護ではあったが、今思い返すとまだまだ蓋をしていたんだなと生ぬるく訂正してしまうほどに。
 あんな堂上初めて見るな。というのが小牧の感想だ。
 小牧の記憶の中では堂上はずっと独り者だったため、彼女にどう接するのか見たことがなかったから、よりいっそうそう思うのかもしれないが。
「で、笠原がどうかしたんですか? 堂上教官とうまく行ったとたん浮かれちゃって地に足がついてなくて、事務作業ミスの多量生産でもやらかしちゃいましたか? あの子は、張り切れば張り切るほど空回りする所ありますから、何かやらかしても不思議は内ですけれど」
 さくっときっつい一言を誰もが見とれるような笑顔を浮かべながら言う柴崎に、小牧は苦笑を漏らす。
「さすがにそれは心配ないよ。堂上がいない分しっかりしなきゃって思っているみたいだけれど、もう新人でもないしね」
 あえて小牧が言わなくても判っているはずだ。
 ケアレスミスがなくなったわけではないが、そんなに大きな失敗はもうほとんどと言っていいほどない。
 それは館内業務においても当てはまる。
 自分が出来るレファレンスとそうでないものの見極めも的確で、不得手な分野のレファレンスを頼まれても以前のように慌てふためくことなく、別の館員に振る。
 その場合も相手を的確に選べるようになっていた。
 今では、立派な特殊部隊隊員であり図書館員に成長を遂げている。
 このまま順調にいけば、来年の昇任試験でほぼ確実に三正にはなれるだろう。
 筆記試験でよほどのへまをやらかさなければという注釈は付くが。
 だが、小牧が懸念していることはそういった日常業務のことでも、数ヶ月後の昇任試験に関することでもない。
「一つ、気になっていることがあってね」
「気になっていることですか?」
 柴崎は軽く小首をかしげる。
 一番の懸案は郁がいつ重い腰をあげて、堂上の病室に足を向けるかだったはずだが、それはとうの昔  というよりつい最近、先日無事にクリアーし、今では強い酒を飲まなきゃやってられないほどのラブラブっぷりだ。
 堂上の復帰後、どれだけ歩く糖害になるかと思うと自重しろとつっこみたくなるぐらいだが、小牧はそれを真剣に懸念しているのだろうか?
 いやいや、もしそうだとしてもそれは堂上に釘を刺すか、からかいのネタにするかのどちらかだ。
 度が過ぎるようならば、この歩く正論は真っ正面から切りつけるだろう。
 それに、堂上自身、直属の部下に手を出したのだから、今まで以上に公私の区別はきっちりとつけるに違いない。
 その点に関しては柴崎は何も懸念していないのだが、小牧は憂えているのだろうか。それとも、他になにか気になる懸案事項でもあっただろうか?
 柴崎は己のデータをフル稼働させてみるが、どれも小牧があえて柴崎に問いかけるようなネタになるとは思えず、答えが見つからない。
 そんな柴崎の様子に、小牧は考え過ぎかな……と呟きながら懸念を口にした。
「柴崎さんが何も心配していないところをみると大丈夫そうだけれど、笠原さん夜に魘されていたりとかない? 特に雨の日とか」
「夜ですか?」
 小牧を見上げると、小牧は真剣な趣で頷き返す。
「特にあたしが気になる範囲では問題ありませんが。相変わらず腹出して爆睡してますけれど……雨の日って……」
 小牧が具体的に何を言いたいのかはっきりと判ったわけではないが、雨の日と聞くとどうしても思い出すのは、堂上が撃たれたと連絡が入った日のことだ。
 今ではもうずいぶん昔の話のような気もするが、まだあの日から一ヶ月と経ってはいなかった。
 あの日から怒濤のように日々が流れているため、まだ一ヶ月しか経ってないというのが嘘のようだ。
「魘されていないならいいんだけれど」
「今のところそんな気配欠片もないですけれど、何か懸念があるんですね?」
 それがなければわざわざ小牧が柴崎を呼び出してまで確認しないはずだ。
 だが、何を懸念しているのかまでは、さすがの柴崎も察することができなかった。
「必ずしもって訳じゃないし、思い出したりしていないのなら、今のところ問題ないかなって……気がするんだけれど、フラッシュバックって何がきっかけで起こるか判らないから、一応上官として確認しておかないとね。堂上からじゃ聞けないだろうし」
「フラッシュバックですか?」
 言葉の意味は分かるが、一体なぜ郁がフラッシュバックを起こすのかが分からず、柴崎の柳眉が寄る。
「あの日、笠原さんの目の前で堂上が撃たれたでしょう?」
「それでフラッシュバックですか? ですがこう言ってはなんですけれど……」
 初めて人が撃たれたのを見たのなら、衝撃は強いかもしれないが、今まで郁の目の前で撃たれた人間がいないわけではない。
 かつての抗争で郁自身引き金を引き良化隊を撃ったこともある。
 玄田が目の前で蜂の巣と言わんばかりに撃たれたこともあった。
 堂上が撃たれた衝撃は大きいだろうが、人が撃たれ倒れるのはは初めてではない。
 柴崎が言いにくそうに言葉尻を濁すと、小牧は苦笑を浮かべ柴崎があえて言わなかった言葉を口にした。
「言いたくはないけれど、確かに仲間が……いや、人が撃たれて倒れるのを見ても、君たちほどショックは大きくはないと思う」
 慣れたとは表現したくはない。
 だが、感覚が麻痺しているのは確実だ。
 麻痺させなければ、事務的に機械的に現状を把握しなければ、もう二度と前線には立てない。いや、それどころか二次、三次と被害が拡大し、その中に自分が名を連ねる事にもなりかねない。
 それを処理する能力もまた特殊部隊の人間として必要な事だった。
 新人だった頃は震えていた手足もいつのまにか震えることはなくなり、早鐘を打った鼓動も呼吸一つで落ち着きを取り戻せるようになっている。
 時と経験を重ねるたびに。
 郁が今までの経験の中で、どう折り合いを付けたのかは小牧は判らない。
 小牧はあえてそこへ首をつっこむまねをすることはしなかった。
 自分がわざわざ口出ししなくても、彼女の傍には何かと心配性で過保護な堂上が居たし、なにより彼女自身がそう簡単にその手の弱音を吐いたり、晒すことを許していなかった。
 それでもただ、一度だけ。
 トラウマに悩まされていそうな気配を漂わせていた頃があった事だけは、小牧も把握している。
 ただ、それはおそらく堂上がうまく導いたのだろう。
 あの、茨城美術県展の時に。
 今までも大なり小なりの検閲闘争があり、郁自身何度も銃弾の中を駆け抜けている。その中でも一番酷かったと言って良いのは水戸準基地での抗争だ。
銃で倒れた人間よりも、潰されていく人の方が酷い有様だった。
 小牧や手塚は狙撃班だったため、目の前でその光景を見てはいないが、郁はそれを目の前で見ていた。
 受けた衝撃は生半可な物ではない。そして初めて殺意を持って人を撃った衝撃はどれほどだったのだろうか。
 弾は運良く防弾チョッキに当たり、郁の撃った弾で死傷する者は出ては居なかったが、彼女の中であの引き金はまさに、己の手が血で汚れた瞬間でもあり、一生忘れることの出来ない、見えない傷みを心に負ったはずだ。
 あの日の、あの瞬間。彼女が取り乱したのは屋上に居ても判った。
 だから、伝えたのだ。
 せめてもの気休めに。
 防弾チョッキに当たっただけで、撤退したと。なんの気休めにもならないと判っていながら。
 あの事件後、茨城の防衛部で辞めた者が何人か居たことを小牧は知っている。
 数日夢に魘されてもおかしくはないようなものだ。
 堂上が手助けしたのか、それとも自力で乗り越えたのか判らないが、手段など人それぞれであり周りがとやかく言うことではない。
 郁はうまく消化し乗り越えた。
 それも前線を駆け抜けるタスクフォースの一員として必要な気質の一つだ。
 一つ一つ乗り越えていけば、生半可な事では動じない強くしなやかな精神を培って行ける。
 だが、例外と言うことは何事もある。
 その例外がつい一ヶ月ほど前の堂上被弾だ。
「どんな優秀な隊員であっても、あの時の笠原さんの状況は、正直かなりきついと思う。例え、俺や堂上でも……ね。理性では堂上の指示が正しいことはわかっている。あの場ではそれしかなかった。当麻先生を逃がすには一刻の猶予もなかったし、基地に戻ったら大使館などに駆け込める手段はゼロに近くなるぐらいに可能性が落ちただろうしね。だから、笠原さんは堂上の指示通り動いた。そして、彼女はたった一人であの嵐の中、当麻先生を保護して無事に大阪へ抜けて、英国領事館へ駆け込めた」
 それは、誰もが手放しで褒め称える結果へと繋がった。
 彼女が大阪という大都市の街中で無許可でありながら、自動小銃を連射して、たった一枚の始末書で済んだのは、その結果がどれほど大きな成果を図書隊に運んできたかを物語る。
 通常であれば無許可での自動小銃の乱射は、懲戒免職にもなりかねない。
 運良く免れたとしても、査問や降格などに値するだけの無謀ぶりだ。
 それが、降格どころかほぼ昇進は確実。玄田は笑いながら二階級特進ものだなと笑い飛ばしていたほどだ。
 茨城県展での活躍、当麻事件での活躍、それ以外の通常業務内での犯人捕獲率、図書館業務に置いてはまだ若干至らない点はあるとはいえ、イベントの立案採用率など、諸々を考慮すれば考査ではおそらく同期では、手塚や柴崎を抜いてトップを行くだろう。
 結果だけをみれば、過去十年を振り返っても、今後十年先を見ても、そうそうに同じような活躍を出来る者はいないだろう。
 本人はまったく自覚してはいないだろうが、そのぐらいに彼女の実績は華々しい。
「彼女の活躍によって救われた人はたくさんいる。だけれど、あの時笠原さんはどんな思いで堂上の指示に従ったんだろうね。信頼している上官としてだけじゃなくて、男として慕っている相手が目の前で撃たれて、死にかけているのに、置いていかなければならなかった。その後も連絡の取りようがない状況だ。いくら救急車で運ばれた事は判っていても、その後の容態を知りようがなかったんだから、断腸の思いなんて簡単には言い表せなかったはずだ」
 その時の郁の心情がどんなものだったか想像することはできても、誰も判るとは言えない。
 きっと、何度も基地に連絡をとり堂上の容態を確認したかっただろう。
 今後の打ち合わせをし、指示を仰ぎたいと思っただろう。
 彼女は特殊部隊に配属されてやっと三年。
 今では戦力として何一つ不安もなく、背中を預けられる仲間だと断言できるが、経験数はまだ図書隊に入ってたった三年しか経っていない。
 そう、「たった」と言えるほどの年数しか経験してない、二十代半ばの女性でしかないのだから。
 どれほどまでの不安と孤独と戦ったのだろう。
 わからない。
 分かることは、どれほど堂上が気がかりで、心配で不安に押しつぶされそうになっていたとしても、それを引きずることなく任務を全うし終えたことが全てであり、彼女の精神力の強さと、堂上に対する全幅の信頼と、応えたいという彼女の純粋でまっすぐな想い。
「陸上をやってたからですかね。あの子、あんなに感情的なのにゴールを定めたとなったら、雑音がすとんと抜け落ちるみたいで、マインドコントロールというか集中力凄いですから」
「だから反動が少し怖いな……って思ったんだ」
「反動ですか?」
「そう。あの時はただ、当麻先生を領事館に連れて行くという一点のみに意識を集中していただろうし、堂上のことはあえて考えないようにしていたと思う。でないと、不安に押しつぶされかねない状況だったしね」
 俺でもそうしただろうし。
 最悪な事を考え出したら一歩も動けなくなりかねない。
 人一人を犠牲にしてまで、前へ進むべきなのか。
 一瞬でも躊躇したら全てがアウトだ。
 そんな危うい境界線の上を、おそらく本人は無自覚に立っていただろう。
 
 堂上と約束をした。

 それだけを、頼りにして。

「結果的に堂上は無事に復帰できるから、笠原さんの心理的負担はかなり減っているとは思うけれど、あの時のあの状況のストレスを考えるとね、どこでどんな反動が出るか判らないから心配なんだ。特に抑圧されてたものって、不安や悩みから解消された後に、顕在化しやすいしね」
 それで、最初の問に繋がるのか。
 戦闘職種ではなく、前線の厳しさを本当の意味では知らない柴崎には、想像することはできても我が身のこととして実感することはできない。
 特に、彼らが強いられている戦場から受けるストレスというものは、自分が知るストレスとは違いすぎる。
「茨城から帰ってきた頃は一時眠れない夜もありましたが、今回は特に問題ないと思います。雨の日だろうが嵐だろうが、気にした様子を見せたことはありませんし、夜に飛び起きたって事もありません」
 あの日から一ヶ月弱。
 その間に幾度か雨の日があり、台風も一度だけあったが、柴崎が知る限り郁の様子がいつもと違ったと思うことは一度もなかった。
 台風で見舞いに行けないことを、ぼやいていたぐらいだ。
「堂上も無事だったし、晴れて恋人同士になれたし、うまく消化できたのかな」
 あの時かかったはずの負荷が残らないように、堂上自身出来る限り、気に掛けてできる事は自分自身でしているはずだ。
 それが、良い方へ転化されているのならばそれに越したことはない。
 だが、もしもの事を考えると放置はできない。
 郁の事だから自ら進んで不安を人に話すことは無いだろう。
 秘して黙して己の中で抱えむ事がたやすく予測できる。
 笑ってたいしたことはないといって。
 どんなに苦しくても辛くても。
 今にも溺れて沈んでしまいそうになっても、藁にさえ掴まず自分の足で泳ぎ続けようとするに違いない。
 だが、無理に押さえ込み、見て見ぬふりをし続ければそれは知らないうちに負荷を増し、どこで爆発するか判らない地雷になりかねない。
 それは、戦闘職種としては危険な爆弾だ。
「カウンセリングを定期的に受診することは俺たちは義務だし、この前受けたカウンセリングでも引っかかってないから大丈夫だとは思うけれど……」
 柴崎も安易に大丈夫ではと言えない。
 だが、小牧が考えているほどに不安を感じることがないのは、日々郁の幸せそうな顔を見ているからか。
 毎日勤務後の見舞いは、幾ら体力に自信があったとしても疲れるはずだ。
 だが、そんな様子は欠片も見せることなく、寧ろ毎日が幸せでたまらないと言わんばかりに笑みが溢れ、血色の良い顔を見ていれば、どんな不安も飛び去っていく。
 それでも、小牧の言葉に柴崎は楽観視できないと身を引き締める。
「あたしも、注意してみておきます」
「よろしくね」

 二人の心配は懸念のまま終わろうとしていた。
 だが、小牧が畏れていたとおり、思いにもよらないタイミングで懸念は現実かしようとしていた。
 堂上が被弾したあの嵐の日から一年が経とうとする頃になって。

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