砂 上 の 楼 閣 BLOG

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【夏コミ案内3】タイムリミットのある恋人達

2017.08.07 (Mon)
タイムリミットのある恋人達 -R18-
 A5サイズ 92ページ 900円 
 サイトに掲載している【タイムリミットのある恋人達】のリメイクになります。
 (おおよそ4倍の長さになりました・・・)

タイムリミットのある恋人達

サンプルは下記へ

 第一章




「やばっ、駅まで天気持つかなぁ」
 大学を出て数分ほど歩いたところで、ふっと風の臭いが変わったことに気がつき、空を見上げ眉を顰める。
 ナルのマンションを出た時は、見事な青空が広がっていた。
 雲一つ無いほどの晴天。
 今日も今年一番の暑さを記録するかもしれない。そんなニュースが流れていたのを何となく覚えている。そんな毎日毎日記録していたら、あっという間に今世紀で一番暑い夏・・・と言われるようになるのではないか。
 そのぐらい毎日が熱い日々が続いていたが、じりじりと焦げ付くような強い日差しは今は分厚い黒い雲に隠されており、大地をローストせんばかりの強い日差しは感じられない。
 それどころか、昼間だというのに夕闇が迫ってきているかのような薄暗さ。湿った風の臭い。
(――これ、絶対に降る)
 遠くから微かに雷鳴すら聞こえてきたような気がする。
 駅までは確実にもたない。
 せめて大学に居る間に降ってくれれば良かったのに。でなければ駅に着いてからだったらやり過ごすことはいくらでも出来るが、ビルに囲まれた大通りでは逃げ込めるような場所はどこにもない。
 大学に戻るか、駅にこのまま向かうか・・・どうせ濡れるなら駅に駆け込むのが一番、その後の行動に支障がでないか。
 例え途中でずぶ濡れになったとしても、駅ビルで着替えを買うことが出来る。
 大学の最寄り駅だけあって、学生の強い味方的なショップはあるが、バイトで全てをまかなっている麻衣からしてみれば、予定外の出費は結構ダメージが大きいが致し方ない。
 目的地が決まればできるだけ被害に遭わないように祈りながら、残りの距離を走り抜けるしかない。
 万が一に備えてスマホはバックの一番濡れにくい奥へ。一応防水対応にはなっているが、濡れないに越したことはない。
「よし!」
 気合いを入れて走り出す。
 駅までの距離は信号で足止めを食らわなければおよそ五分ちょっと。
 バックを胸に抱きかかえて、走り出そうとした瞬間、空からぽつり・・・と大粒の水滴が重力に抗えなかったといわんばかりに滴り落ちてきた。
 ぽつん、ぽつん、ぽつん。
 大粒の水滴は一つだけには留まらない。
 瞬く間にその量を増やし、アスファルトに黒の水玉模様を着くってゆく。
「ぎゃっ、走り出す前に来た!」
 ぽつんぽつんは、一呼吸したころには音を変えた。
 バケツをひっくり返したような雨。という表現が昔からされていたが、そんな甘いものではない。まるで滝のような勢いで世界を全て洗い流さんばかりの勢いで一気に降り始める。
 音という音はすべて雨音に飲まれ、周囲に乱立している高層ビルは雨煙によってその輪郭がぼやけてゆく。
 すぐ傍を車が走り抜ければ、路肩に溜まった水が跳ね上がり岩場に押し寄せる波のように降りかかる。限られた空間しかない歩道では避けるすべなどない。
 頭から右半身に泥水を被り、この格好では着替えてもすぐに泥だらけになってしまう。
「最悪・・・もう、いったん帰ってシャワー浴びないとだめじゃん」
 ほんの数分前まで三十五度まである猛暑だったが、今では豪雨のせいで気温は一気にさがっていた。それでもまだ蒸し暑いといえるほどの気温ではあったが、全身雨に濡れ泥水を被れば、さすがに体温の方が下がってゆき、寒気と共に歯の根がかみ合わなくなる。
 この格好で電車にのれば確実に冷房で風邪をひきそうだ。その前にこんなずぶ濡れの泥まみれでは、周囲のひんしゅくを買うこと間違いないが。
 雨が止むまで後どれほどかかるだろうか。
 そんなに長いこと降り続けるものでもないことはわかっているが、今すぐ止んだとしてもここまで濡れてしまえば意味は無い。
 とにかくせめてタオルぐらいどこかで買えないか。そんな事を考えながら、歩道を小走りで急ぐ。
(ちょっと贅沢だけど、スーパー温泉とかこの近くにあったら絶対に今すぐかけこむ!)
 いっそ、滝川辺りに連絡をして迎えを頼めるかどうか聞いた方が早いか・・・こんな時に、恋人であるナルの名が思い浮かばないというのがちょっと残念な気もするが、滝川か安原で、事務所に連絡を入れてもナルではなくリンが来るのがオチだ。
 だが、今から連絡を取っても寄りの駅まで来てもらうのを待つより、自分が移動してしまう方が断然早いと思うと、連絡を入れるのも躊躇してしまう。
 この後どうするか考えながらも、足早に進めていく。
 この辺りは低地のせいか水はけが悪く、瞬く間に踝まで水に浸かる。
(渋谷辺りは大丈夫かな……)
 豪雨が降る度に心配になるのは渋谷の地下鉄駅だ。
 あそこは四方が坂になっているせいか、水が流れ込みやすく、度々地下浸水を起こして地下鉄が止まったりしていたことがあった。
 ここ何年かで排水設備を整えたのかその手のニュースは聞かなくなったが、豪雨が降る度に心配になってしまう。
 雨脚は弱まるどころかさらに酷くなっていき、視界はかなり悪い。
 通りを行く車はヘッドライトをつけ、速度をかなり落として進んでいるのが、音で分かる。
 こんな天気では運転するのも大変だろうな――そんな事を考えながら交差点にさしかかる。
 信号はタイミング悪く青から赤へ。
 駅はもう目の前。あと少しだったのに。雨宿り出来るような所はないため、そのまま雨風に吹かれてなければならず、ため息が漏れる。
 Tシャツもジーンズもべったりと肌にまとわりつき鬱陶しい。
 まるで滝に打たれているかのような勢いの雨に、自然と首は下になる。
 何度かバックの中で振動が伝わってくる。
 きっと、誰かがこの天気を心配して連絡してきてくれているのだろう。とりあえず、駅に着いて雨から逃れられたら連絡を入れよう。
 あと少し。
 目の前に駅が見えてきたから少しだけ気分が浮上し始めて来た時の事だった。
 辺りには強い雨脚の音と、車道を走り抜ける車の走行音、そのたびに上がる水しぶき程度しか聞こえない。
 いや、それらの音が他の音を全て飲み込んでいたのかもしれない。
 だが、そんな音をものともしないヒステリックな声音が聞こえて来た。
「だから、一緒にいた男は誰だ!って聞いているんだよ!」
 男の怒声に思わず顔を上げて、ちらりと声が聞こえてきた方に視線を向けると、男がなにやら険しい顔で女に詰め寄っていた。
 その腕を掴み先を歩こうとしている女を引き留める。
 だが、女はその腕を鬱陶しげに振り払おうとしているが、男の力の前に出来ずに居た。
「だから、従兄弟だって言っているでしょ!」
「従兄弟同士が腕組んであるくかよ!」
「兄妹みたいなもんでしょ!?」
 こんな天気の時まで痴話げんかしなくてもいいのに。そんな事を思わずにはいられないやりとり。
 詳細は分からない――いや、分からなくても今のやりとりだけで想像は付く。
 おそらく女性の方が、従兄弟と言い張っている男性と腕を組んで歩いている所を、彼氏が偶然みかけてしまい、その結果問い詰められている所なのだろう。
 男はこの雨の中にもかかわらず、顔を紅潮させて女に詰め寄っていた。
 かなり嫉妬深い性格なのか、疑ってしまうような前科が彼女にあるのか。
 疑うような理由があるにしても、従兄弟相手にあそこまで激高するものなのだろうか。 思わず横目に彼らを見ながら、自分に当てはめてしまう。
 ナルが自分以外の女性と腕を組む。
(いやいやありえないでしょ。あたしとだってなかなか組ませてくれないんだから)
 初っぱなから全否定になってしまい、話にならない。
 とりあえず、誰でもいいからナルが腕を組んでいるとしよう。
 相手は誰だろうか。
 ルエラ――別に腹は立たない。当たり前だ彼女は母親だ。
 まどか――別に腹は立たない。そもそもナルの事を子供扱いしかしていないし、自分もまどかと腕を組む。
 真砂子――別に腹は立たない。何の嫌がらせをしているのだろう。としか思えない。
 綾子――別に腹は立たない。高笑いが聞こえてきそうだ。
 自分の想像力が貧相なのか。
 それとも、ナルの交友関係が貧相なのか。
 思い浮かんだ女性達では腹が立ちようもなく、よその自分の知らない女性達で想像してみようと思うと・・・ものすごくしかめっ面をしているナルの顔しか思い浮かばないせいか、腹が立つよりも苦笑が漏れてしまう。
(なんかずれている?)
 思わず首をかしげてしまう。
 やはりここは、面白くないとか思うべきなのだろうか。
 逆に、自分がナル以外の男と腕を組んでいるところをナルが見たら・・・と考えると、さらに想像力は貧相になってゆく。
 答えはそもそも見ていない。だ。
 一番腕を組んだりしている比率が高いのはぼーさんで……これは、ナルよりももしかしたら滝川との方が腕を組んでいるのではと思うほどだ。
 もしかしたら抱きついたりもしているかもしれない。
 その時ナルの様子など気にしたこともないが、そもそも存在自体を無視されているようなきがする。
 というより、むしろ自分は巻き込むなオーラの方がばりばりだ。
(ナルが嫉妬するような事あるのかなぁ)
 例えば、ナルが涎を流さんばかりに美味しい物件依頼を引き受けたのが、ナルが不在の時とか。
 ナルが不在の時に限って、良好なデータが取れた時とか?
 ナルが出払っていたタイミングでかなり珍しい現象が起きたとか――考えれば考えるほど空しさが募ってゆくことしか思い浮かばない。
「不毛だ・・・あたしにはあんなバカップルな喧嘩しようがない」
 できないのではなく、そもそもあんな王道――というより一昔前のトレンディードラマでもやらなさそうな展開にはなりようがない。
 鳴ったら別の意味で怖いような気がする。 
 思いっきりため息を吐き出して、額に張り付いて邪魔くさい前髪をはらう。
 いくら自分とナルではああいった喧嘩になりようがないとはいえ、喧嘩しているカップルをみて、ちょっとだけ羨ましいと思ってしまうのは不毛極まりない。
(対等に見られてないのかなぁ……)
 そんなわけではないとは分かっている。
 ただ、ああいった普通のカップルらしいやりとりが、少しだけ羨ましいと思ってしまったのはここだけの話だ。しょっちゅう思っているような気もするが。
 とはいっても、喧嘩するにしても、もう少し状況と場所考えてもいいんじゃないだろうか。
 何もこんな豪雨の中でずぶ濡れになってまで、するようなやりとりだろうか。
 それだけ周りが見えてないということなのかもしれないが、ちょっとしたことは滝のような豪雨に流してしまえばいいのに。
 駅前の交差点というだけあって、人気はこの雨の中でもそれなりにある。むしろ、皆が駅に避難しようと同じように考えて居るのか、交差点はそれなりに人で埋め尽くされていた。
 その中でのカップルの喧嘩はやはり人目を引く。
 皆がチラチラと視線を向けこの雨の中よくやる。と同じような気持ちになっているのが何となく伝わってき、たまたま目があった女性と思わず苦笑しあってしまう。
 それでも、信号が変わって人が流れ出せば、誰もがこのカップルの事などに意識を向けることなく、駅に向かって一目散に走り出すのだろう。
 麻衣もそのつもりだった。
 だが、それは誰もできなかった。
 赤信号から青信号へ切り替わった時、目が合い苦笑し合った女性の目がこれ以上無いほど見開かれ顔が引きつる。有り体に言えば恐怖に顔が引きつるというべきか。
 そして、彼女は脱兎のごとく走り出した。
 どうしたんだろう? と思う間もない。
 急に強烈な明かりが右側から差し込んできた。
 何の明かりかとそちらに視線を向けると、二つの強い光がまっすぐこちらに向かってくる。
 車道から歩道に乗り上げた一台のバン。
 道路脇に置かれていた看板など跳ね飛ばし、通行人が一人二人と弾き飛ばされ、後続車のタイヤに押しつぶされる。
 派手に鳴り響くクラクション。ハンドルを切り損ねた車は反対車線に突っ込み、対向車を巻き込んで雑居ビルに突っ込む。跳ね上がるいくつもの傘。悲鳴。怒声。
 何が目の前で起きているのか分からなかった。
 車は歩道に乗り上げてもスピードが緩まない。それどころかさらにスピードが上がり、ヘッドライトの片側が割れて明かりが消え、サイドミラーが引き飛ぶ。
 蜘蛛の子を散らすとはこのことをいうのか。
 どこか人事のように逃げ惑う人々を見ていると、ぐっと誰かに腕を引っ張られた。
 スーツを着た老人が呆然と立っている麻衣の腕を掴んで、声を張り上げる。
 何を言っているのか豪雨と、クラクションやら、衝突音、人々の悲鳴に寄ってかき消されてよく聞こえない。
 だが、何かを叫びながらぐいぐいと引っ張られ、引きずられるように老人の後を追うようにその場から離れる。
 車は水煙をまき散らしながら人々を跳ね飛ばしていく。
 速度はおさまらず、そのうなり声がすぐ傍まで迫る勢いで近づいてくる。
 足がもつれ転ぶ人。
 逃げ惑う人とぶつかりバランスを崩した人。
 彼らをまるで空き缶でも踏み潰すかのように、バンは躊躇いもなくタイヤの下に敷き潰していく。
 悲鳴。
 鳴き声。
 呻き声。
 黒い水たまりを侵食する赤い筋。
 逃げなければと思うのに、足がまるで鉛で出来ているかのように重くて、思うとおりに動いてくれない。
 何処にそんな力があるのか。不思議に思うほど強い力で老人に腕をひっぱられるが、思うとおりに動かない足がもつれてその場に派手に転ぶ。
 膝を派手にすりむき、掌の皮も派手にめくれたが、感じるはずの痛みが今はわからない。
 老人が慌てて引き返してくるが、彼の姿がライトに照らされる。
 振り返れば、目と鼻の先にまで近づいている車のライトに目を射られ、眩しさから思わず目を閉じる。
 いや違う。眩しさからで閉じたわけではない。
 水しぶきをまき散らしてボコボコに変形した車のヘッドが眼前に迫る。
(逃げられない!)
 ぎゅっと目を閉じて身体を硬直させる。
 想像も出来ない衝撃が襲ってくるまでどのぐらいだろうか。
 もう何秒もないはずだ。
 へたり込んだ状態で車と衝突したら、ただではすまない・・・いやへたしたら、タイヤにm巻き込まれて即死か。
 自分も母親と同じ道を歩むことになるのか。
 ナルは自分の遺体を目の前にしたとき、なんと思うだろう。
 せめて、頭ぐらいは無傷であって欲しい――そうすれば、ナルが解剖できるだろうか。
(あ、献体同意書にサインしてなかった・・・)
 そんな事がほんの一瞬の間に脳裏に浮かんでは消える。
(せめて、ナルにちゃんとお別れがいいたいな・・・)
 ごめんね――
 何に対しての謝罪か。
 悲鳴。
 叫び声。
 呻き声。
 雨の音。
 クラクション。
 ガラスが砕ける音。
 何かが弾き飛ばされる音。
 そして、車が横転する音が響く。


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