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【SCC26 新刊】おにはうち

2017.05.01 (Mon)
おにはうち
新書サイズ 180ページ 1300円

旅館を営むオーナーの妻が妊娠してから、赤い着物を着た女に襲われるようになったと依頼が入る。
代理人が事務所を訪れた時から、依頼人特有の雰囲気が感じず違和感を覚えた麻衣とナル。
以前依頼を受けた能登の吉見家からの紹介により、違和感がありつつも調査を引き受けるのだが、現地に入ってからその違和感はさらに膨らむ。
たった二日しか与えられない期日。のらりくらりとした態度。
なぜ、自分達が呼ばれたのか。
彼らは本当に調査を受ける気があるのか。疑念が膨らむ。

おにはうち 表紙

   第一章



「やっとついた」

 誰が呟いたのか、思わず漏れたであろう言葉は全員が共通する思いだった。
 東京を出たのはまだ未明と言われる時間帯。
 冬至を過ぎたとは言え一月末のこの時期は明るくなるのは遅い。
 まだまだ夜といっても過言ではない時間帯に、バン荷台に分譲して首都高速中央環状線から途中で首都高速川口線に入り、後はひたすら東北自動車道を北上すること十二時間。途中、予想外の豪雪と吹雪に手間取り、予定時間より二時間もオーバーしてたどりついたのが、今回の調査先である旅館「ろくじょう」だ。
 創業の歴史は古く江戸時代にまでさかのぼるという老舗旅館。
 東北の山々に囲まれた小さな集落に一軒だけ建っている。
 こんなところで旅館をやっていて良くつぶれないなぁ・・・と率直に思ってしまうほど、周囲にはなにもない。
 だが、この旅館にとっては何もない事がウリになっているという。
 都会の喧噪から離れ、自然と静寂に囲まれた温泉宿。時刻を知らせる時計もなければ、携帯の電波も届かず、テレビもない。
 完全に世情を知る全てをシャットアウトした空間で優雅なひとときを  というのが、コンセプトとなっている旅館だった。
「電波届かないって聞いたけれど、本当に入らないね」
 麻衣は手に持っていたスマホの画面を見ると、圏外の二文字が電波表示の所に表示されていた。
「ネット回線は流用させてもらえる事になってますから、Wi-Fiルータを使わせて頂けるのでスマホも使えますよ」
 客に公開はされていないが、旅館を経営する上でネットをシャットアウトはできなかったのだろう。事務室には回線が敷設されており、今回はそこに持ち込んだWi-Fiを接続させて貰って、ネット回線を使用できるようにするという。
 安原は聞き込みを行うがネットでも調べ物をするため、回線がオープンかクローズかは大事なことだった。
「今回は必要不可欠ですが、休暇をこういう所で過ごすのは優雅で素敵ですよね。全ての情報をシャットダウンし、目に入る光景が全て。情緒溢れる自然を前に緩やかに流れる時間をゆったりと過ごすなんて、贅沢ですよ」
 たとえ、プライベート空間では情報をシャットダウンでいたとしても、一歩外に出れば看板、広告、大型モニターなどありとあらゆる情報が街に溢れており、否応なく色々な情報が入ってくる。
 だが、ここには本当になにもないのだ。
 今は一面真っ白な雪に世界は包み込まれているが、この雪が溶けてもその下から何らかの情報が現れると言うことはないだろう。
 ただ、四季によって移り変わる自然があるだけだ。
 店もなければ自動販売機一つないのだから、広告が立ちようがないのかもしれないが、安原の言うとお贅沢な過ごし方なのかもしれない。
「まっ、残念ながら俺らは仕事で来たからそんな優雅な時間はすごせねぇけどな。さて、御大が降りてきたから俺らもいくべ」
 ナルとリンがバンから降りてきたのを確認すると、麻衣もダウンをしっかりと着込んでバンを降りる。
 竹垣に囲まれた旅館。石塀の上に竹垣が組まれ敷地と通りを仕切っており、垣根の高さは二メートルほどになる。
 ここから見えるのは竹垣の上から生い茂る青々とした竹のみだ。
 だが、すぐ近くに鹿威しがあるのか、カコーンと竹筒が支持台を叩く音が聞こえてくる。
「いいねぇ。竹林に鹿威しの音。外国人が好みそうなザ・日本って感じがすでに漂ってくるな」
「敷地に竹林があるなんて凄いよねぇ」
「ってか、この山そのものが竹下さんとこの敷地なんだろ? まさか調査範囲がまるっとこの山一つってことにはなんねぇだろうな」
 滝川は上を仰ぎ見て顔を引きつらせる。
 旅館の敷地内は手入れがしっかりとされているが、そこから外れればほぼ手つかずの状態で、竹林というより竹藪になっているという。
「依頼時に聞いた話では、山の中に出るって感じじゃなかったし、それにわざわざ行かなきゃ山の中でなにかあっても気がつかないんじゃないかなぁ」
「っておとは、ナル坊の気分次第ってか?」
「雪山行軍出来るような準備してないから、それはないと思いますが・・・」
 その時は確実にメンバーにえばれるのは滝川で、安原は時と場合によるが、可能性的には高い。二人は嫌なことは考えるのはやめておこう。ということで話をつけると、ナル達の元に向かう。
 ナルはすでに呼び鈴を鳴らして、到着を告げているところだった。
 どうやら無駄なおしゃべりに興じていた自分達のことは放置することにしたようだ。一声も掛けられない。
 まるで二人で来たと言わんばかりの様子に、三人は顔を見合わせると慌てて近づくが、振り返る事なく嫌みを言われる。
「宿泊客の入り口ではありませんが?」
「ちょっと話してただけじゃん」
「話がしたいのなら永遠にどうぞ」
「ねちっこい男は嫌われるんだぞ」
「出来るならな」
 平然と言い切るナルは勝ち誇った顔をしていた。
 出来る物なら・・・ってことは、嫌えないと確信仕切っていると言うことだ。
 どこからそんな自信がわいて出てくるんだ。
 思わず唖然としてしまうのは麻衣だけではない。
 滝川も安原もリンも二人のやりとりに大きなため息を零す。
「仲良きことはいいことだがな、いちゃつくのは二人っきりの時にしてくれ。俺ら一人モンには目の毒」
 麻衣とナルの肩をがしっと抱え込みながら、二人の間から顔をにょきっと出すと滝川が二人の間に割って入る。
「のわっ! 別にいちゃついてなんかいないし!」
 麻衣はくわっと噛みついてくるが、ナルは滝川に視線を向ける。
 出会った当初と比べて身長差は縮んだが、滝川の方がまだ数センチ高いため、ナルは見上げているのだが、滝川の気分的には見下ろされている心境だ。
「な、なんだよ・・・」
 じっと間近から見られ思わず腰が引く。
「嫉妬は醜いですよ」
「は!?」
 どういう意味じゃ!?
 叫ぶ滝川の腕をするりとすり抜けると、ナルは開け放たれた門の前で唖然としている中年の女性に、何事も無かったかのように向かい合い名乗る。
「渋谷サイキックリサーチ所長の渋谷です。予定より遅くなってしまい申し訳ありません」
 女将はまだ三十代半ばと聞いているが、目の前の女性は五十代半ばぐらいだ。年齢や服装から見て仲居の一人だろう。
 彼女は扉を開けたら漫才のようなやりとりにあっけにとられていたが、真っ正面からナルを見たとたん、文字通り目が点となり口をあんぐりと開け、「んまぁ、あやしげなぼーさんが来るのかと思ったけれど、垢抜けて芸能人みたいなお人だわ」と思わず漏れてしまったといわんばかりの言葉を漏らしていた。
 ある意味ここまでストレートな反応は新鮮だ。
 思わずぷっと吹き出してしまうと、仲居は己の失言に気がついたのだろう。
「大変失礼いたしました」と、慌てて謝罪し、膝を少しだけ曲げて腰を折り頭を下げる。
「遠いところご足労頂きましてありがとうございます。旅館「ろくじょう」にて仲居を勤めさせていただいております山口と申します。主の竹下が中にてお待ちしておりますので、どうぞお入り下さい。お足下が大変滑りやすくなっておりますので、ご注意下さいませ」
 竹林に囲まれた小径は綺麗に除雪されてはいたが、踏み石の上にはうっすらと雪が残っており、つるつるに輝いている。
 油断するとつるっといってしまいそうな輝き具合に、慎重に慎重に足を進めていく。
 門から本陣――聞き慣れない単語に首をかしげると、すぐにこの旅館では本館のことをそう呼んでいると説明をしてくれた――築三百年を越える古民家を移築した建物で、屋根の長さは約四十五メートルかやの厚さは約一メートルと厚く、全国のかやぶき職人の手で作られたものだと、山口は誇らしげに語る。
 店一つないこの集落では、仕事と言えば町まで行かなければ何もない。その町でもたいした仕事がないため、この旅館で働けるのはとてもありがたいことだと、自慢げに語っていく。
「今夜はこれから天気が荒れるという話でしたので、荒れる前に到着されてようございました。もう荒れている地域があると伺っておりましたので、もしかしたら今夜は来られないのではないかと、心配しておりました」
 陽はすでに暮れ始め、空は茜色よりも藍色の割合を濃くしていた。瞬きをする間にも濃度は変わっていき、あと数分もすればこの辺りは夜の闇にすっぽりと包まれるのだろう。
 どこからともなく聞こえてくるのはフクロウの鳴き声か。鳥の羽ばたく音、竹に積もった雪が落ちる音や、大きくしなって笹の葉同士がこすれ合う音。
 都会のような耳障りな喧噪は一切無いが、静寂の中にも音はたくさんあるのだという事が分かる。
 今にも竹林の奥から、鹿やイノシシが姿を現してきそうだ。
(ウサギとかだったら可愛いのになぁ)
 間違ってもイノシシや熊は遠慮願いたい動物だが。
(熊はこの時期冬眠中かぁ。でも、最近は冬でも冬眠しないで餌を求めて民家まで降りてくるとかいうニュース聞くし、出くわしちゃったりするのかなぁ。熊に九字って効くのかな?)
 人であろうと動物であろうと向けるのは御法度な事は判ってはいるが、いざという時は仕方ない。
 とりあえず、あまりり建物から離れないように気を付けよう。
 そんな事を考えつつも、一度気になってしまうとなんとなく落ち着かない。
 揺れる笹の動きがそこになにか生き物が居るのではないかと想像をかき立てる。
 少しずつ強くなる風の音、大きくしなる竹。雪がばさばさ落ちてゆき、山口が言うとおり今夜はかなり荒れるのだという事が、麻衣にも伝わってきた。
 ナルとリンは機材を運び込めるだけの時間があるかどうかを歩きながら打ち合わせしている。
 門から本陣のスタッフ口までの距離は三十メートルほど。機材を運ぶのに苦になるほどの距離ではないが、天気があれて吹雪き始めるとこの距離は危険になるとリンが言う。
 ほんの数メートルの移動もままならなくなるのだ。
 玄関を目の前にして凍死という事にもなりかねない。
 一晩ぐらいならバンに積み込んだままでも、支障はないだろう。そんな話をしている間にも風はどんどん強くなってゆき、バサバサと何かがはためく大きな音が聞こえた。
(雪が落ちた音・・・?)
 にしては何か少し違うような気がした。
 まるで、シーツなんかが風に煽られて大きくはためくような、そんな感じの音に聞こえたのだが、何か洗濯物の取りこぼしがあったのだろうか。
 音が聞こえた方に何気なく意識を向ける。
 そちらには闇の色を深くしていく竹林があるだけで、それらしき物はなにもない。
 気のせいか・・・そう思った時、風が大きく吹き抜ける。
 突風のような唐突な強い風に、降り積もっていた雪が一気に舞い上がり、視界を白く染める。
「うわっ!」
 滝川の声が少し離れた所で聞こえる。
「動かないで下さい!」
 風音に消されないように張り上げられた、山口の声が響く。
「突風です! すぐに止むと思いますので、その場で動かないで下さい。足下が危のうございますので!」
 時折、山から集落に向かって抜ける風が突風とることがあるが、それはほんの少しでおさまる。だから、今は雪が落ち着くのを待つようにと、山口は指示を出すのだが、すぐに止むと思った風は勢いを増すばかりで、止む気配はない。
 軽く巻き上がっただけの雪煙は、地に落ちる前にさらに上に舞い上がり、横に縦にと重力から解き放たれたかのごとく舞荒れ狂う。
 今まで経験したことのない天気の変わりように、舞は思わず足を止めてしまう。
 咄嗟に何処に進めばいいのか方向感覚を一瞬にして見失ってしまった。
 すぐ傍に居たはずの仲間達の気配は感じるが、彼らも「なんじゃこりゃ!?」と唐突の変化について行けないようだった。
 突風が吹き抜けたのではなく、荒れ始めの第一陣の風だったのか。
「皆様、本陣の明かりを目指して急いで下さい! 竹林の方に行ってしまいますと方向が分からなくなりますので、明かりを見失わないようにお気をつけてください! 足下も大変不安定となっております」
 山口が必死になって声を張り上げて、本陣にまっすぐ向かうよう何度も告げる。
 闇の中でも、雪の中でも、本陣の放つ明かりはかき消えることなく存在を主張していた。
 皆が急ぎ足で向かっているのは分かるが、麻衣の意識は少しその場からずれていた。
 本陣まで急いで向かわなければという意識がすっぽりと抜け落ち、一人完全に足を止めて、じっと竹林を凝視していた。
 麻衣が間違っても小径からそれないように咄嗟に腕を掴んでいた為、麻衣が唐突に立ち止まった事に、ナルだけが気がつく。
「麻衣っ」
 反射的に腕を引っ張るが、麻衣の意識は既にどこかへ向かっていたのか、ナルの力に身体のバランスを崩し倒れかかってくる。
 咄嗟に支えるが、麻衣の意識はまだどこかにずれていた。
「麻衣?」
 視線の先を追ってみるが、ナルには地吹雪で舞い上がった雪しか見えない。ほんの少し先にあるはずの竹林すらもう雪煙に飲まれて見えなくなっていた。
「ナル! 麻衣! 何しているんだ!?」
 滝川の声が雪の中から聞こえてくるが、ナルはそれに返事をすることなく麻衣の様子を観察する。
 じっと竹林の方を凝視している。
 軽いトランス状態に入っているようにも見えたが、なぜ麻衣が急にそんな状態になったのか、ナルには検討がつかない。
(さっきまで至って普通の様子だったはずだ)
 山口の話を興味深げに聞いていた。
 他に気が向かうような物は何も無かったはずだ。
 天候が荒れ始め促されるまま小径を急いだ。
 麻衣の事だ足を滑らせる可能性もあるため、フォローできるようすぐ傍にいたため、麻衣の気配はナルが一番近くで感じていた。
 ニコニコといつも通り人懐こい表情を浮かべ、時に歓声をあげる麻衣の反応に、山口も楽しげに話しかけていた。
(天気はその間に荒れてゆき、風が強く吹き抜け地吹雪が起こり始めてから、麻衣の様子が変わったか?)
 ナルには麻衣が何に気を引かれたのか分からない。
だが、このままここでぼんやりと立っていたら、そう時間がかからないうちに雪だるまの完成だ。
「麻衣」
 名を呼ぶ。
「麻衣」
 わずかに震えた瞼。
 寒さからか雪の冷たさからか、その顔からは血の気がなくなり、髪の毛にも顔にも、肩にも雪がつもり始めている。
 肌の温度で解けた雪が、滴となってこめかみから頬に伝い流れ落ちていく様子はまるで泣いているようにも見えた。
「麻衣」
 これで反応しなければ担いで行くか。
 そう思った時麻衣は意思を持って瞬いた。
「赤い着物が・・・」
「麻衣?」
 腕をまっすぐ竹林に向かって伸ばし指さす。
 何も見えないただ白い闇が吹き荒れる先に向かって。
「赤い着物の袖・・かな? 奥に・・・消えた?」
 なぜ最後だけ疑問形なのか、そもそも赤い着物の袖とは何なのか。
 ますます疑問が沸いて出てくるが、今はその問い一つ一つ麻衣にしている場合ではない。
「寝ぼけるのはあとにしろ。雪だるまになる気が無いなら急ぐぞ」
 意識がこっちを向いたのならば話は早い。麻衣の腕を引っ張って明かりの見える方へ足を踏み出す。
 麻衣はまだ指を差した方向を気にしていたが、引っ張られるまま素直に歩き始めた。
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