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砂 上 の 楼 閣 BLOG

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【Spark11新刊案内】SnowDust

2016.10.07 (Fri)
【Snow Dust】
A5サイズ 128ページ 1100円
ムツゴロウ直前の話し(フライングなどはありません)

【Snow Dust】


初外泊(ムツゴロウ)を目前にして、任務の為延期になってしまう。
しかし、任務はスキー場へお泊まりで向かうことに。
検閲対象ではないが、貴重な本の受け取りに向かうのだが、現地の図書隊がきな臭い動きをしているという情報が入る。
現地図書隊の妨害を警戒しつつ、郁は人生初のスキーを初彼と満喫できるか⁉︎
そして、無事、本の受け取りが完了するのか。
ゆきやまでらんでぶー(うそ)

若干オリキャラも出ますが、当社比倍以上の率で堂上と郁がイチャコラしております。チューすらまともにしてないけれど。

サンプルはまるっと一章を載せています。


 一、




 風呂上がり。最近の郁は肌の手入れに余念が無い。
 今までこんなに自分磨きに時間をかけたことはなかったが、来る公休を目前として手入れに力が入っていた。
 といっても、柴崎のように今まで積み重ねてきたものはなにもない。
 にわかに取り組んだからと言ってどれほど効果があるのか。
 不安がこみ上げてくるが、しないよりはましだろう。と自分に言い聞かせてしっかりと肌に保湿をしていく。
「せっせと磨きかけちゃって、ちょっと前とは大違いねー」
 長い足にせっせとクリームを塗りたくっていると、柴崎がポテチを指先でつまみながらニヤニヤと絡んでくる。
「今まであたしがどんなに肌の手入れちゃんとしなさいっていっても、面倒の一言で取り合ってくれなかったのに。何も言わなくてもあんたをこんなに変えちゃう、教官がちょっとねたましい」
 唇を少しとがらせてふて腐れたような顔をしても、美人は美人のままだ。
 自分なら確実にファニーフェイスになるのに。美人はずるい。おもわずそうぼやきたくなってしまうが、その性格はおつりはいらないからと遠慮したくなるほど、癖がある。
「な、なによ。突然」
「べっつにー。むしろ突然なのはあんたの方でしょう。愛しの教官と初お泊まりが決まったとたん、ヤル気だしちゃって。あんなにがちがちにがんじがらめになってたお母さんの呪縛はどこへいったのかしら。こうなってくるとむしろ戻ってこーいって感じよねー」
 あたしの茨城県産純情乙女戻ってこーい! といきなり柴崎は叫び出す。
「ぎゃっ! ヤ、ヤル気ってなに!?」
顔を真っ赤にして叫ぶと、柴崎はニヤリと笑みを浮かべる。
 うわ・・・嫌な予感。そう思う時は大概外さない。柴崎はストレートに言葉を口にしかける。
「え? そりゃ、せっく  」
「ぎゃー!言わなくて良い! んな事言わなくて良いから!! ってか、あんたはいつもやっていることじゃん! 別にめずらしくもなんともないでしょ!?」
 無意味に手を上下にふりながらわたわたと慌て出すが、柴崎はしれっと指摘する。
「あたしのお手入れはデイリー。若かりし頃から余念が無い日々の日課よ。だけど、あんたはにわかさん」
 若かりし頃も何もまだ、自分たちは若いの部類に入ると思うのだが・・・柴崎のいう若かりし頃はいったいいつなのだろうか。ってかめちゃおばさん臭い発言だなぁというのは報復が怖いからお口にチャックだ。その代わり別の事を、もごもごと口にする。
「あ、あたしだって肌の手入れぐらい・・・」
「あんたの手入れって顔と手ぐらいでしょー。それだって化粧水に保湿を適当に塗りたくる感じだったじゃない。それが、足の手入れとか? 背中とか? デコルテとか?そんなところ今まで手入れしてなかったでっしょ。愛しい彼氏に初めて触れてもらうって時に始めたっていう、もう下心ありありな感じ?」
 柴崎は四つん這いになって移動すると、指を伸ばして郁の背筋をつつつーとなぞるように触れる。
「ぎゃっ! な、な、なにするの!」
 いきなり背中を指でなぞられ、郁はまるで雷に打たれたかのように硬直するが、すぐに真っ赤になって慌てて柴崎の手から逃れるように後ずさる。
「なにって、背中のコンディションの確認? あんた代謝いいから今までまともに手入れしてないのに肌綺麗よねぇ」
 外で訓練があるため自分より紫外線の影響を多く受けているはずだが、訓練着をきっちりと着ているため、肌の露出は低く日焼けをすることはほとんどないの実態だ。若干、うなじが他の肌よりも色が濃いが、髪で首筋が隠れているからか、思ったほど日に焼けてない。
 顔はさすがに健康的な色合いをしているが、郁のはつらつとした性格にあった色味に焼けているため難点にはならない。
 総じて言うならば、健康美を体現していると言うべきか。
 代謝がよく化粧を塗りたくるわけでもない。となれば、基礎を押さえていれば肌の健康は保たれるということなのだろう。しっとりとなめらかでずっと触れていたくなる手触りだ。
 むしろ艶があり毛穴も目立たず陶器のようになめらかだ。
 まして、こうして日夜手入れの努力を怠らなれば、なおさら磨きがかかるというもの。
 あんなに、堂上との外泊に腰が退けていたというのが嘘のように、その日のためにせっせと自分を磨いている郁が健気で、柴崎はそんな郁をあの朴念仁がさらっていくのがもったいないと思ってしまう。
 なぜ自分は女なのだろうか。
 男だったらどんな手を使っても、郁の心をがっちりと掴んで、堂上になど渡さなかった。
 こんなにまっすぐに気持ちを向けられるというのはどんな気持ちなのだろうと思う。
「まぁ、思いっきり磨いて堂上教官に愛でてもらいなさーい」
 なによりも幸せな恋をしている郁がうらやましい。
 相手の為に自分を磨いたことがあるだろうか。
 振り返ると相手の為ではなく、自分のために手入れを行い維持してきただけだ。
「愛でてって・・・・・・・・・」
 郁は柴崎の言葉にこれ以上無いほど真っ赤になる。
 今からこんなになっていて当日大丈夫か?と思うこともしばしあるが、そこは年上である堂上が郁をリードしていくことだろう。
 少なくとも初めてを迎える女にたいし、無体なまねだけはしないはずだ。
「文字通りでしょ。愛しいダーリンと初めてのお泊まり。もう、教官なんてあんたのこと愛でたくて愛でたくて仕方ないに決まっているじゃない」
「あー・・・あたし、その、どうすればいいのかな・・・その・・・・・・・・」
 真っ赤になってしどろもどろになる郁に柴崎は苦笑を浮かべる。
 友達同士で泊まるのではないのだから、初めて迎えるその時を、どうすればいいのか不安になる気持ちは分かる。
 自分の時は相手が、勝手に経験があるものと思い込んでたせいで、とてもではないが嬉し恥ずかし初体験。なんていえる代物でもなかったが、きっと堂上は郁がそう思えるような夜にしようと思っているはずだ。
「大丈夫よ。教官はあんたに合わせてくれるわ。だから、あんたは安心して教官に身を任せていればいいだけ。余計なことは考えなくていいのよ」
「そ、そうなの? そういうのってマグロとか言うんでしょ? 男の人ってそういうのいやがるんじゃ・・・」
 例え純情乙女と言われて、その通りの人生を歩んで来たとしても、大学からずっと寮暮らしだ。否応なく男女のあれこれは耳に入ってくるというもの。だから、郁も経験は無くてもそれなりの話はなんだかんだ耳にしている。
 今まではそれらは人ごと。として、聞き流してきていたのだが、いざ自分の身に置き換えると頭がオーバーヒートを起こしてしまい,真っ白な煙をぷすぷすと立ち上る状態だ。
「ばっかねぇ。んなことは先よ先。おいおいでいいの。それに、あんたが知っているのは他人の事でしょう。あんたは教官と二人で関係を築いていけばいいのよ。教官だって誰かとレクチャーされた事なんてなぞる気ないでしょうし。そんなこと心配しなくても大丈夫よ」
「そ、そうなの?」
「そーよ。心配だったり分からないことがあったら、あたしに聞くみたいに教官に聞いていきなさい」
「ひ、引かれないかな・・・」
 背を丸めて上目遣いに見上げてくる郁は、自分より本当に背が十センチ以上も高い戦闘職種なのかと思ってしまうほどかわいかった。
「だいじょーぶよー。もういまさらあんたが何をやらかしても引きやしないわよ!」
「そ、それ褒めてないよね!?」
 むしろけなしてない!? きゃんきゃん子犬のように吠える郁に、柴崎はケラケラ笑いながら今更でしょ~とさらに追い打ちをかける。
 心配ないと柴崎が言い切るのは、郁が思っている以上に堂上が郁のことを大切に思っていることを、知っているからだ。
 堂上ならば自分の欲望を優先して、自分本位にことを進めることはしないだろう。
 郁が何もかも初めてだということはよく分かっているのだ。七ヶ月、郁の気持ちが追いつくまでただひたすら耐え続けていたのだから、いざその時になっても、自分の欲望よりも、郁を怯えさせないように、ただ痛いだけの初体験にならないようにするだろう。
 とはいえ・・・
(教官も久しぶりよねぇ・・・)
 女抱くの。と、心の中で呟く。
 どの程度日照りだったのか、柴崎も詳細は知らない。
 ただ、自分達が入隊してからは確実に女っ気のない生活をしているはずだ。どう調べても自分達の入隊後の彼女情報が引っかかってこない。ともなれば、それなりの日数は経っているだろう。
 生理的に処理はしているだろうが、久しぶりに女の肌に触れて、理性はしっかりと働くのだろうか。
 がっつくような歳ではないとはいえ、長年片思いを向けていた相手だ。そして、付き合うようになってからも七ヶ月もお預け状態。
 まさに目の前にぶら下がっているにんじん状態で待機だ。
 普通に考えたら相当まっているモノではないのだろうか。
 それもキスはどんなんでもOKっていうんだから、半端に煽られてそうとう辛かったでしょうねぇ。
 ついつい下衆の勘ぐりをしたくなるが、それは女が知りようもない男の事情。というものだろう。いや、触れてはならない範囲のはずだ。
 互いに戦闘職種。体力だけは馬並みに二人ともある・・・・・・いやいやいや、いくら何でも郁はまだ真っ白の無垢の娘だ。体力云々がどんなにあっても無理は利かない。
 とはいえ・・・・・・
(この娘の恐ろしい所は無自覚に、ものすごい爆弾を投下するってところよね)
 リミッターが外れた勢いでやり過ぎないことを祈るばかりだ。
 まぁ、どれほどきつくても自分の欲を優先するような人ではないのは確かだ。
 郁が必要以上に怯えなければ、つつがなく成就されることだろう。
 これ以上、余計な横やりが入らないように祈るばかり。
 なのだが・・・ふとカレンダーに目をとめて考え込むような仕草をする。
 その視線は郁のカレンダーに記されているハートマークを注視していた。
「あんたの次の公休日って明後日よね?」
 明後日にはピンクの蛍光ペンでかわいらしくハートマーク、その前日にあたる明日には【外泊届け!】と書かれているため、間違いようがない。
「そうだけど」
 仕上げのクリームを丁寧に塗り塗りしながら、柴崎につられるようにカレンダーを見て、やっぱりあれて恥ずかしいことだったかなぁ・・・と、今更ながらに羞恥がこみ上げてくる。
 つい先日、夜の呼び出しの時に、堂上から次の公休は朝を一緒に迎えたい。と熱を帯びた声で誘われた。
 怖くないと言えば嘘になる。
 未知の世界へと足を一歩踏み込む不安は今もまだ消えない。
 だけれど、それは知らないから感じる不安であって、堂上に対してではない。
 だから、誘われたときは心臓が壊れそうなほどドキドキしたけれど、迷いはなかった。
 むしろまた触ってもらえなくなる方が怖い。
 また前のように触ってもらえる。いや、違う。ただ触ってもらえるのではなく、互いにもっと触れ合える。
 そう思ったら戸惑いとかためらいは吹っ飛び、勢いのままにカレンダーに書き込んでしまったのだが、考えてみたらそれはその日に致します。と公言しているようなものだ。
 いくら柴崎にはバレバレとはいえ・・・
(あたしってばなんて小っ恥ずかしいことをっ!!)
 今更ながらだが、床の上をごろごろとのたうち回るような恥ずかしさがこみ上げてくる。
 しかし、一人百面相を繰り返す郁をよそに、柴崎はなにやら難しい顔で考え込んでいる。
「まぁ、あれはメンツはもう決まっているし、大丈夫かしらねぇ」
「え? なんかいった?」
 心の中で床の上をごろごろとのたうち回っていたため、柴崎がぽつりと漏らした言葉を聞き逃す。
「あんたんところからも応援一班借りている件でちょっとね」
「応援一班って進藤一正の班が応援に駆り出されている件?」
 どうやら自分の外泊云々は関係なさそうな話の展開に、郁はほっと安堵のため息をつく。
 柴崎が難しい顔をするときは大概、何かしらの案件を抱えていてタスクに相談しようとしている前ぶりの時が多い。
 その時は高確率で自分たちも任務に就く。案件の内容によっては、公休が流れることもままあることだ。
 仕事上公休が流れるのは仕方ないと思っているが、今回だけは勘弁して欲しいというのが本心だ。
 まるで天がその気持ちをくんでくれたかのように、今回は進藤が請けおった案件になっているから自分たちの予定に変動はない。
「そーよー。あんたその話どの程度知っているの?」
「どのていどって、うちの班にふられた話じゃないから詳しくは知らない。ただ、珍しく進藤一正が率先して名乗り出たから、美味しい物件ってことぐらい?」
 面倒なことはすぐに人に効率よく回す進藤が、みずから出張部隊に名乗り出たと言うことは、何か美味しい餌がその先にあるのだろう。ということは、下っ端の郁でも理解できた。
 どの案件をどの班に回すかは、シフトの状況なども関係してくるが、鶴の一声のごとく玄田の指示で決まることもあれば、班長会議で割り当てが決まることもある。
 今回は後者の班長会議で決められることになっていた。
 そして、任務内容を聞いてさてどの班が・・・となったところで、進藤が自ら立候補した。という話は堂上から聞いている。
 出張の類いはすぐに面倒臭がって逃げようとするのに珍しいと思ったが、出張先を聞いて郁も手塚も思わず「ああ、なるほど」と納得してしまった。
 なぜ進藤が目の色を変えたのか。
 答えは簡単だ。
 それは、この案件の場所がスキー場に併設されているホテル内の図書館だからだ。
 スキーをする気満々なのが、いやっというほど伝わってくる。
 もう少しオブラートに包んだ方が絶対にいいはずだ。と、堂上班の四人は見事に一致する。
「確か新潟県内のスキー場に併設された私立図書館の閉館に伴って寄贈された本の運搬だよね? 検閲対象が含まれないから基本的には業務部主導で行って、防衛部とタスクから一班ずつ一応警備って形でつくって聞いているけれど」
 昨年、図書館を含む全ての施設を運営していた社長が突然死し、その後を継いだ息子が図書館を処分することを決めたのは昨年末のことだ。
 図書館といっても小規模の物で、子供や宿泊客を対象にした図書館・・・というより図書室と表現してもいいかもしれない。
 私設図書館のため当然検閲の対象外となっているが、それが図書館に寄贈されるとなれば話は変わってくる。
 だが、リストアップされているタイトルを確認した限りでは、検閲の対象となるような本は含まれていなかったため、大がかりな警備などの対象とはならない。
 それでも、常ならばタスクフォースに一任されるはずの任務だが、検閲対象がないのならば防衛方だけではなく、業務部が主導となってもいいのではないかと、誰かが言い出し、結果、タスクを含む防衛方は一応の応援警備という形で要請を受け、メインは業務部と決まった。
 場所を聞いた進藤が自分が行くと立候補し、一日前倒しで現地入りすると言って、今夜から出て行ったはずだ。
 本来ならば許可されるはずがないのだが、今回まるで狙っていたかのようにその前日が進藤班の公休日だ。公休日に遠出していても問題は無い。それがたまたま、翌日の任務地なだけだ。というのが進藤の持論だ。
 はたして、総務部からそれをよしとしてくれるのか。
 どちらにしろ自分たちには関係ないことだが、なぜ柴崎が考え込んでいるのだろうか。
「なんかトラブルの予感? 検閲対象ないんでしょう?」
「資料上では問題ないはずだが、いささか古いリストだから、交ざってないとは言い切れない」
 蔵書数は二万冊ちょっと。
 個人で収集したことを考えると相当な数だろう。
 中には検閲対象とはなってはいないが、希少価値の高くなっている本もあるという。
 発行年数が古くなればなるほど、現代では手に入りにくくなっており、亡くなった先代社長が幼少期に手にしていた本などはそれらに分類される。
 中には戦前に発行された本などもあるらしく、閉館の話を聞きつけたマニアな収集家が譲ってくれないかと掛け合っていたという話もあるほどだ。だが、遺言で自分の死後図書館を維持しない場合は、関東図書基地に本の遺贈をすることが記されていた。
 二万等言う膨大な数を個人で管理していれば、全てを網羅しきれず気がついたら盗まれていたという可能性も否定できないが、大学となってくると話は別だ
 セキュリティーカードがなければ何もできない。
「にしても何で関東なんだろう。新潟のスキー場だから普通寄贈するとしたら地元の図書館とか、北陸基地の方になるもんじゃない?」
 自分が任務に就くわけでは無いため詳細はしらない。
 ただ、聞いたのは新潟にあるホテルに併設されている私設図書館からの寄贈。ということだけだ。
 寄贈してもらえるのはありがたいことで、中には貴重な書籍もあるということが分かっていたため、全て受け入れる事で遺言を管理している弁護士と話がついてはいたのだが、寄贈先がなぜ関東なのだろうか。という疑問に郁は首を捻る。
「それは、奥様のツテよ」
「奥様?」
「亡くなられた社長の奥様よ。奥様はご健在。奥様の弟さんが図書隊の関係者らしいの。厳密にいう弟ご夫妻の息子が関東図書基地に配属されているそうよ。それで北陸図書館ではなくて関東図書基地に話がきたのよ」
「ああ、親戚が居たら相談しやすいもんねぇ。でも、なんで閉めちゃうんだろうね。小田原の時みたいに検閲対象となる本があるわけでもないのに、あらかじめ遺贈するなんて遺言どうして残してたんだろ。維持費がやっぱり大変だったのかな?」
 一万冊という蔵書数は個人で管理する範囲を超えている。
 大勢の人が触れれば書籍の管理だけでも、それなりに維持費がかかるだろう。
 それが負担になっていたのだろうか。
「後を継いだ息子が売り払ってしまうのを懸念していたらしいわよ」
「売り払う?」
「息子はずっと反対していたんですって。ほら、スキー場って今どこも経営が厳しいって言われるじゃない? 依頼人のスキー場も経営はギリギリらしくて、維持費がかかる図書室閉鎖して、その空間に別の施設を作るべきだって、ずっと先代に掛け合ってたらしいわよ。スキー場にまで来て誰が本を読むんだってしょっちゅうケンカしてたらしいわー」
「・・・いつも思うけどさ、あんたそんな話どこで仕入れてくるのよ」
 図書館内のことならともかく、遙か遠い他県の話。それも公共図書館ですらない。
「あら、情報を制す者は世界を制すのよ」
「あんたは世界征服でも企んでいるのか」
「それもいいわねー。そうしたら検閲なんてばからしいことそっこうで廃止するのに!」
 冗談が冗談に聞こえないところが怖い。
 郁は思わず首をがっくり折る。
「で、あんたが懸念する理由が、あたしにはやっぱり分からないんだけれど」
 分かったことは相変わらずの情報通ということだけだ。
「んー。まぁ不確定要素なんだけれど」
 だから、このちょっと気になる事は実は誰にも話していないことだった。
 自分の上司に相談しても、相手にしてもらえないレベル。
 情報部としては上に上げているが、いかんせんいくら関東基地司令旗下の情報部とはいえ、北陸エリアは縄張りからはずれており、管轄外だ。
 情報を集めるぐらいはできるが、関東図書基地としてできることはなにもない。せいぜい必要が生じたら北陸基地に報告を上げることしかできない。
「あとを継いだ馬鹿息子が、寄贈を反対しているって話しがねぇ・・・」
「反対ってなんで? そもそも閉鎖しようとしてたんでしょ?」
「そ、だけど寄贈ではなくて、売ろうとしてたのよ」
 寄贈という形になれば依頼人達には一銭もお金は入らない。
 それが、気にくわないと言う事なのだろうか。
「二万冊もあるし、中にはけっこう貴重なのもあって、売ろうとすれば結構な値になるものもあるのよ。全てがすべてじゃないけれど、トータルすれば馬鹿にできない金額になると思うわよ。当初は先代が亡くなったら本を売ったお金で、施設にてこ入れするつもりだったんでしょうね。そのアテが外れて大激怒って話。だけど、それを察していた先代は先手をうっていたってわけ」
 密かに妻の血縁を頼り、関東図書基地への寄贈の段取りを、息子に悟られないようにつけていたという。
「なるほど、でもしかして邪魔が入る可能性があるとか? でも、良化隊や賛同団体でもあるまいし妨害行動なんてそうそうできないでしょ」
「それがねぇ・・・北陸の図書隊の動きがどうもねぇ」
「・・・・・・まさか、北陸が邪魔するってこと? だって、同じ図書隊じゃん。それにさすがに二万冊なんてまるっと受け入れはできないんだから、この後仕分けして各図書館や関連施設に配布するんでしょう? 欲しいモンがあればその時に名乗りあげれば、地元の基地だし融通きくんじゃないの?」
「あんたは単純でいいわねぇ。欲しい本があるから下さいって言うのは、簡単にみえてそうでもないのよ」
「? だって別に全部うちらで抱え込んで離さないって言うわけじゃないんだし」
「そういうあんたのまっすぐな所あたし好きよー」
「い、いきなりなによ!」
 脈絡もなく言われ、郁は思わず後ずさる。
「いやねぇ。そんな警戒しなくてもいいじゃない」
「あんたは時々急に百合になるから油断できない」
「んま、このあたしに抱きつかれるなんて早々ないことよー」
 自分で言うか自分で。と言っても無駄だ。
 とりあえず適度な距離を置きながら、どういうことよと柴崎に先を促す。
「至極簡単。プライドの問題だ」
「プライド?」
「同じ図書隊だけど縄張りが違うでしょ。向こうからしてみたら関東図書隊の人間に縄張りを荒らされているようなもんよー。貴重書をよそのエリアに目の前で持って行かれるの見ているしかできないんだもの。それを正式に欲しいって申請書ださなきゃならないなんて、結構業腹だと思わない?」
「そういうもん?」
「そういうもんよ」
「仲間なのに?」
「仲間であって仲間ではないわよ」
 新潟は北陸図書隊に分類されているため、向こうからしてみたら自分達の縄張りという意識が強くなるのは当然だ。
 距離的にも心理的にもなぜ、寄贈される図書館が自分達の所ではなく、関東なのか。
 いくら身内が関係しているとはいえ、おもしろい話ではないはずだ。
「元社長夫人の話では、北陸の図書隊からも是非北陸にって話もあったらしいんだけれど、何でか知らないけれど、こっちで話を既に進めてたから丁重に断ったらしいのよ。だけど、北陸が今度は馬鹿息子の方にすり寄ったらしくて」
「すり寄った?」
「そ、相場の倍で買い取るって言う話」
 それは、いったいどこから仕入れたネタなのだろうか。
 郁は無言のまましばらく柴崎を見る。
 地方公務員の自分達がどうしてエリアをまたいで馴染みを作れるのか・・・疑問は山の様にあるが、柴崎の出身地を考えれば、少なくとも北陸エリアに顔なじみがいたとしてもおかしくはない。と勝手に納得する。
「倍で買い取るって、北陸は予算がそんなに潤沢なの?」
 なんて羨ましい。
 貧乏図書隊が座右の銘状態の特殊部隊の身としては、予算が潤沢にあるというのは猛烈に羨ましい。
 一般企業のように企業努力が身を結べば、利益が増えるという訳ではない。
「地方で予算が一番潤沢なのはどう見ても東京でしょう。東京より金回りのいい地域があるわけないのに、何を根拠にそんな話が出ているのかが掴めないのよ」
「嘘ついてだまし取ろうとしているわけじゃ無きゃいいけれど」
 もし、嘘をついて取引を持ちかけていたとすれば、それはそれで大問題だ。
 そんな事が表沙汰になれば、図書隊の信用が失墜する。
 そうなれば北陸図書基地だけの問題では済まない。
 各地域全図書隊の信用に関わってくる。
「明日、教官にその話しておくよ。そうしたら進藤一正にも話伝わるだろうし、なにか向こうの動きも分かるかもしれないし」
「さっすが、話が早くて助かるわー。うちの上司じゃ確証のない事は聞けないって一蹴されて終わりだもの」
「うちは逆にどんな些細な事でも気になる事は報告しろっていわれるけどなー」
 堂上に報告したことはそのまま、さらに上の緒形や玄田にあがる。
 むろん、堂上自身も取捨するだろうが、部下の発言はよほどくだらない事で無い限り、堂上はむやみに切り捨てるような事はしない。
 それは、堂上だけでは無く小牧に相談をしても、他の先輩隊員にしても同様のことだ。是非を判断するのは玄田になるが、玄田自身も部下の進言をむやみに切り捨てる事はしない。
「タスクの団結力と機動性はそういう所にあるってことよねぇ。はぁ、うちもそうってほしいけれど、大所帯過ぎてだめだわ」
「五十人そこそこだからできることだよ。それに皆規格外だし」
 タスクフォースは総員で五十人程度の少数精鋭部隊だ人員が一桁どころか二桁は確実に違う。班単位で見ても四~五人で一班に対し、倍~三倍で一つのグループとなっている業務部では、個々の質よりも統制を求められるのは当然の話だ。
 防衛部ともなればさらに厳しくなる。
(あたし、最初からタスクでよかったのかもしれない・・・)
 反射で動いてしまうため、防衛部に配属されていたら士長の試験すら受けさせてもらえなかったかもしれない。と、今更ながらに思う。
 自分がこうしてタスクの一員として活動できているのは、自由に動かせてくれる上司達に囲まれているからだ。
「それに、どこもかしこもうちみたいになったら何もかも収集つかなくなって、毎日がお祭り騒ぎになって大変だよ」
 ケラケラと郁は笑い飛ばすが、柴崎としてみれば話が分かる上司に囲まれて働いている郁が少しばかり羨ましいと、思うのが正直な所だ。
 全てにおいて規則が。規則はどうなっている。規定外だ。の一辺倒では息が詰まる。
 だから、こうして正規の手順を踏まずに、雑談の振りをして話を直の上を通り越して、さらに上へと繋げるしかない。
「タスクのあんたに頼むのはちょっとずるい手だけど、一応隊長の耳に入れておいて」
「了解!」
 郁は綺麗に敬礼の姿勢を取ると、にっこりと見事な笑みを浮かべて引き受けた。
 とはいえ、この時はあくまでも進藤に注意を促すぐらいだろうと、郁も柴崎も思っていたのだった。



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